「名バイプレイヤー・平泉成の集大成!」明日を綴る写真館 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
名バイプレイヤー・平泉成の集大成!
地元愛知出身の名バイプレイヤー平泉成さんの映画初主演ということで、愛知県民の義務と誉れを感じながら鑑賞してきました。平泉成さんの人柄が伝わるような温かい作品で、癒しのひとときを味わうことができました。
ストーリーは、東京で活躍しながらも、人物を撮ることが苦手な気鋭のカメラマン・太一が、たまたま見かけた人物写真に心を揺さぶられ、その撮影者である鮫島から何かを得ようと、鮫島が愛知で営むさびれた写真館を訪ねて弟子入りし、鮫島の写真家としての譲れぬ思いに触れる中で、大切なことに気づいていくというもの。
普段は温厚だが、頑固で譲れぬものを持つ鮫島は、まさに平泉成さんのイメージどおりのキャラクターで、主演としての収まりのよさを感じます。そんな鮫島が語る写真に対する熱い思いが、若きカメラマンに大切な気づきを与えるという構図は、ありきたりな印象を受けますが、そのぶん穏やかな気持ちで見守ることができます。そこに、鮫島と息子、太一と母親という二組の親子の再生物語を絡めて、物語に奥行きを与えています。
鮫島の撮る人物写真がどれほどすばらしいものなのかは、素人の私には正直言ってわかりません。それでも、その瞬間の空気までも写し込もうとする、鮫島の熱い思いはよくわかります。すべてを残すことはできないからこそ、そこに精いっぱいの思いを刻みたくてシャッターを切るのでしょう。写真家のそんな思いまでもが写し込まれたとき、観る者の心を揺さぶる作品になるのかもしれません。
私も4年前から趣味で写真を撮り始めましたが、いい写真を撮りたいという気持ちが強すぎて、ろくな写真を撮れていません。でも、これも、被写体の魅力やそこから得た感動を伝えたいという思いより、見栄えのいい写真を撮りたいと空回りする自分が、そこに写っているということなのかもしれません。
作品の舞台は岡崎で、地元愛知の見知った土地がスクリーンに映るのはやはりうれしいものです。何度も映る乙川べりは、今まで気づかなかったフォトジェニックな一面を見せ、新たな魅力を伝えているようです。作中に登場したSHiN-pleさんのケーキも食べてみたくなります。せっかくなら写真家を主人公に据えたことを最大限に活用して、鮫島が市井の人々をスナップする体で、岡崎の名所や名物や人々をもっと幅広くフィーチャーしてもよかったのではないかと思います。あと、欲を言えば、鮫島の撮った写真をもっとたくさん見せて、太一が惚れ込んだ腕前を映像で納得させてほしかったです。
主演は平泉成さんで、役者人生の集大成としての燻し銀の演技が光ります。共演は佐野晶哉くんで、鮫島との出会いを経て変容した太一を表情豊かに演じています。脇を固めるのは、佐藤浩市さん、吉瀬美智子さん、高橋克典さん、田中健さん、美保純さん、赤井英和さん、黒木瞳さん、市毛良枝さんらで、大先輩の晴れ舞台を祝うかのように豪華実力派キャストが顔を並べます。