「ブルーピリオドの上澄みだけを掬ったような映画。」ブルーピリオド Sさんの映画レビュー(感想・評価)
ブルーピリオドの上澄みだけを掬ったような映画。
原作を読んでいる者の感想です。
本作は主人公が藝大を受験するまでの物語が描かれています。これは原作でいうと1巻から6巻までに当たりますが、2時間にまとめるに無理があったかと思います。原作を読んでいて結末を知っている者からすると、単なるダイジェストのように思えてしまい、ブルーピリオドの面白さ、魅力が十分に表現されていないと感じました。作中のセリフを借りるなら「上澄みだけを掬ったような」映画でした。
ブルーピリオドの魅力は、美術を通じて自分と向き合う主人公の葛藤と成長、登場人物たちの人間味にあると思っています。
この映画ではそれが感じられなくて残念でした。
まずは主人公のキャラクターをもう少し掘り下げて欲しかったと思います。
器用で要領がよく、人付き合いも上手いけれど、何かに本気に取り組んだことがない主人公が、芸術と出会い芸術の世界にのめり込んで行く様子が原作のとても面白いところです。この映画では主人公がどんな人柄なのか、なぜ藝大を目指すようになったのかという点が描ききれていないと感じました。
また、主人公の努力についての描写も物足りなく感じました。
絵に関して全くの素人の主人公が藝大受験に挑むためには人一倍の努力が必要であり、原作ではとにかくがむしゃらに努力する主人公の姿と、主人公の努力と熱量に一目置く周りの人物たちが描かれています。この映画では「努力」「努力家」という言葉は出てくるものの、具体的な描写が乏しく、物語全体の説得力が欠けていると感じました。
主人公が何度も悩みながら自分自信と向き合い、試行錯誤しながら課題を乗り越え、成長していく様子こそが、ブルーピリオドの面白いところだと思っているので、そこが描ききれていなかったのが残念でした。
俳優さんたちの演技に関しては気になる点は全くなかったです。
また、原作では白黒でしか見られない絵をカラーで見ることができた点は、原作ファンとしては嬉しかったです。
総合的にはあまり満足できない映画でした。原作を読んだことがない方は読んでみることをおすすめします。