シサムのレビュー・感想・評価
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2つの民の間に立つ者
娯楽性と社会性とが絶妙なバランスで組み合わされ、面白くなおかつ興味深い映画に仕上げられている。同じアイヌ映画でも『ゴールデンカムイ(映画版)』は前者に、『カムイのうた』は後者に傾きすぎていた。登場人物は全員架空人物で物語も背景にあるシャクシャイン蜂起以外は全くのフィクションだが、それゆえに先がどうなるかわからない面白さがあった。終盤の展開にやや甘さを感じるかもしれないが、あくまで娯楽要素にも配慮したフィクションとしてはあれで良かったのだと思う。
主人公の立ち位置やキャラクターも良い。僕はこういう2つの民族(あるいは人種・勢力)に挟まれて、どちらにも所属できず苦悩して立ちつくすような人物に惹かれる傾向があるようだ(実在人物ならハリマオとか李香蘭とか)。演じる寛一郎も良かった。2世どころか3世俳優だが、実力がありゃ何世だろうとなんだっていい。兄役で序盤に退場する三浦貴大も2世なんだし。使用人役の和田正人も、アイヌ役の平野貴大、佐々木ゆか、坂東龍汰、サヘル・ローズらもみな好演。緒形直人や富田靖子が脇役で出てきたのも感慨深い。『相棒』の課長役の山西惇とか、特別出演で古川琴音も出てた。そして終盤にこれまた友情出演?の要潤。パンフ読んだら監督がドラマ『タイムスクープハンター』(未見)の人でその縁で出たらしい。
ちなみにパンフにはプロデューサーのインタビューも載っており、アイヌの映画化を模索する中であるアイヌを題材としたマンガの存在を知り版権管理会社に企画書を持っていったが許可されず、「そんなにアイヌの映画を作りたいならオリジナルでやられたらどうですか?」と言われて、「やってやる!」と火が着いたとのこと。
現代人が心に刻むべき歴史
「歴史は繰り返す」?
アイヌとの歴史に刻まれた "人間" の "生きること" の本質。そこで露わになるのは、今も繰り返される "侵略" と "略奪" そして "ジャーナリズム" の意義。
アイヌ、松前藩、幕府は、パレスチナ、イスラエル、アメリカ。孝二郎は差し詰めアミラ・ハスか?
人間の愚かな振る舞いが続く限り、この映画の輝きは失われない。これは悲しむべき悲劇か、笑うしかない喜劇なのか
パッチワークに表現されたアイヌと和人の間で揺れる気持ち
アイヌに助けてもらった恩恵からアイヌ側の気持ちもわかるし、松前の武士としての立場もあるしで揺らぐ主人公。
アイヌのお婆さんが直してくれた着物のパッチワークは、元の青い服にアイヌの刺繍が施されており、両方の間の立場となってしまう主人公の気持ちを表現していると感じた。
最初の稽古シーンで大川氏の背後にある掛け軸の習字下手くそじゃない?とか
坂東龍太さんの役、もうちょっと何か動きあってもよかったかな〜とか
リキアンノが襲われる回想シーンへの導入やカメラに血がつく演出はちょっといかにもすぎるかな〜とか
ポスターのキャッチコピーになっている「生きろ。未来のために」をセリフとして言っちゃうか〜!とか
いろいろ気になるところはあったけど、題材として勉強になったと感じる。
あと、音楽が全体的になぜか結構おそろしい雰囲気。
ただアイヌと暮らしているとこは平和な感じをもうちょっと出してくれたら、アイヌに味方する時にもっとこちらも共感できそうだなと。
「史実に基づいた物語である」から始まったなら、この後アイヌと幕府、松前藩がどうなったのか最後に文章でも良いからあって欲しかった。
実在の人物ではないから違うと思うけど、あの演出的に孝二郎はてっきり歴史小説家にでもなったのかと思いそうになった。
しなやかな、風、もう一度見たい
映画完成時の中尾浩之監督のコメントに「目指したのはやわらかな風のような映画です。寛一郎さんはそのしなやかさを見事に表現してくれました。予想を遥かに超えたところへ映画を引きあげてくれました。類稀な才能に出会えた。」
と言っておられましたが、主演の寛一郎くん、そのとおりだと思います。
はじめはいささかか弱い主人公(終わりまで武芸は弱いまま)ですが、自身の身に起こることをしなやかに受け止め、しなやかに考える感受性、純粋さを持った主人公でした。この主人公に惹きつけられました。
緒形直人さんの上役も映画をとても引き締めていたと思います。
舞台挨拶などでは、アイヌの文化を伝えたい、今の世の中だからこそアイヌと和人の歴史を知ってもらいたいと寛一郎くんもサヘル・ローズさんも言っておられました。
往々にして、そういうメッセージ性がこの映画の評価の前面に出る要素もありますが、映画としてとっても正統派な映画だなーと思いました。
映像も美しく映画館でこそ見る映画だと思いました。
昨今人気漫画原作のエンターテインメントに振れた大作シリーズが流行るようですが、大手ではないところで、しかも初めて映画製作されたプロデューサーのもとでこの「シサム」のような映画が作られたことは素晴らしいと思います。
もう一度映画館で見たいと思っていましたが、上映館数や上映回も少なくてとっても残念です。
ハワイ国際映画祭で上映されたとか、公式ホームページでもその報告などなどもっと宣伝してほしいなーと思っています。
アイヌ=人間という意味を知らなかった
シサム
邦画をほとんど観に行かないのですが、中島みゆきさんがエンディングということで映画館に行きました。『糸』とかまだ観てないけど。
俳優は知らない人ばっかりで、こんないい役者がまだまだおったんか、富良野塾?って思ってエンディング見たらけっこう知ってました。緒形直人とか、そういえば緒形直人に似てるなって思ってたけど、サヘル・ローズとか要潤は、言われてもまだ信じられない! 途中雄大な自然を前にして寝てしまったのですが、和田正人も僕が寝る前後でキャラが変わってて素晴らしかったです!
戦闘シーンは予想もしないくらいの迫力で、弓矢が迫ってくる恐怖を感じました。『英雄/HERO』の一斉発射以来のインパクトです! よく、カメラレンズに水しぶきや雨粒が付いて臨場感を出す、っていのは目にしますが、血がこびり付いたのははじめて見るかも?
無力感漂う結末ですが、せめて書き残すことが「アンネの日記」のように後世の人を諭すことになる、という希望になるのでしょう。
中島みゆきさんファンとしては、♪「一期一会」合う?って思ったけど、『世界ウルルン滞在記』とは違う重みを与えてくれました。この歌で泣いたのはじめてです。 ♪「伝説」とかでもよかったかも?
歴史を語る事
江戸時代に、蝦夷地のアイヌとの交易を独占していた松前藩の藩士が、和人(シサム)こそがアイヌの非道な収奪者である事に気付いて行く物語です。和人とアイヌの物語というと今年は『ゴールデンカムイ』の年ですが、本作はあれほどの振り切ったエンタメ性はありませんが、その分、問題の本質により真正面から向き合った物語でした。
松前藩とアイヌはやがて武力衝突にまで発展するのですが、このお話の大きな特徴は、この男が「藩士の筋を通してアイヌを成敗すべきか」「アイヌの側に立ち、藩に弓を引くのか」を煩悶する点です。観る者は、「あなたならどうした?」の問いに自然に導かれます。そして、彼の下した決断というのが、「歴史を語る」という事の本質に迫るものでした。
尚、これは仕方のない事なのですが、アイヌの人々の面立ちがやはり和人のものだったのですが、そんな中、サヘル・ローズさんの配役が妙なリアリティを生んでいました。政治家すら「日本は単一民族」などと言ってのけるこの国に暮らす以上、琉球民族についてもアイヌ民族も在日コリアンの人々もシサム(それとて殆どは渡来人)の人間が学ぶべき事は沢山あります。
令和の今にも改めての反省材料
支配者が被支配者に自分の価値観を押し付けることは、古今東西の歴史に珍しいことでは、決してないのですけれども。
本作の場合は、採取・狩猟生活を営んでいたアイヌの人たちは(例え遥かに豊かな精神生活を営んでいたとしても)、すでに交換経済という文明を確立していた松前藩の人たち(和人=シャモ)の目から見れば「遅れた生活」「原始的な生活」をしている人々と映ったことでしょう。
あるいは、自分たちが支配してやることで、彼らも文明の恩恵に浴することができるのだという、ある意味で尊大な考えがあったのかも知れません(ちょうど、太平洋戦争中に、「五族協和による大東亜共栄圏の建設」を錦の御旗に掲げ、東南アジア諸国に対して軍事的支配に基づく同化政策を採ったのと、根本的な考え方は同じなのだろうとも、評論子は思います。)
そう考えることができて、初めて、アイヌの方々を「北海道旧土人」(かつてアイヌの方々を指した法律用語)などと呼べたのだろうとも思います。
孝二郎という一人(和人=シャモ)の人物を基軸として、令和の今にも共通する反省点を浮き彫りにした
という本作は、その点において、充分な佳作だったと思います。
寄り添う気持ち
江戸時代、アイヌと松前藩の交易問題から
発展した戦い。
シサム〓隣人 アイヌ〓人間性
の意味合いが深く描かれている。
真の正義とは何かを心に頂きつつ
後世に残す為、自分の道を切り開く。
人との出会いでぬくもりを感じ、寄り添い
それを伝えようとした和人が居た。
この武士が書かなければ残らなかった
かも知れない。
一部の人間達が利益を得る為に争いと
侵略が始まった。改めて考えさせられる
作品でした。
タイトルなし(ネタバレ)
徳川治世前期。
松前の国は、蝦夷地東にあるアイヌとの交易を進めていた。
武家の次男・孝二郎(寛一郎)は、兄・栄之助(三浦貴大)とともに交易のため東の白糠へと向かった。
が、ある夜、使用人の善助(和田正人)が荷受場で不審な行動をし、見咎めた栄之助を殺害して逃亡。
孝二郎は追跡の途中、崖から転落し、気が付いたときはアイヌのコタンで彼らに助けられていた・・・
といった物語で、監督の中尾浩之はあまり耳なじみがないが、脚本はベテランの尾崎将也。
助けられた孝二郎がアイヌの文化に染まっていくさまは『ダンス・ウィズ・ウルブス』を彷彿とさせるが、尾崎脚本らしい骨太で、かつエンタテインメント性でもって物語を進めていきます。
物語を進めるマクガフィン的仕掛けが二つ。
ひとつは、孝二郎の「仇討ち」。
武士としての矜持から、兄の仇・善助を追う。
(ただし、映画中盤は仇討ちに注力していない)
もうひとつは(ややネタバラシになってしまうが)、善助の持つ「密書」である。
通常、マクガフィンは、そのもの自体の意味に重きは置かれないが、本作では、ドラマの主題に大きくかかわってくる。
これが映画最終盤への物語へと繋がり、結果、現在へと繋がるラストへと展開する。
上手い脚本だねぇ。
映画後半は、松前を中心とした和人とアイヌとの激突、衝突のアクション。
アクションシーンはそれほど多くないが、鉄砲対弓矢の攻防にはハラハラさせられます。
なお、「アイヌ」という語は、彼らの言葉で「人間」を意味することが序盤で示され、和人との闘いの前に、非戦コタンの長がいう台詞が興味深い。
「人は人を殺さない」
本作の主題をなすものだが、古い映画ファンなら『猿は猿を殺さない』を思い出すはず。
ここいらあたりに、脚本家・尾崎将也の映画ファンらしさがにじみ出ていますね。
あわせて観たい作品は、前出の『ダンス・ウィズ・ウルブス』以外に『セデック・バレ』『ニューワールド』『1492 コロンブス』。
細かいところまで行き届いたままならない現実の話
お花畑
なラストにモヤモヤしたまま映画館を後にした。
話せばわかるとか自分たちが正しければ誰かがなんとかしてくれるとか、
そんな世迷い言を世界情勢がこんな時に・・・・。
アイヌに興味を持ったことはほぼない。
蝦夷(えみし)の土地に住むものとしてその苦難の歴史は容易に想像できる。
だから、途中までは興味深くこの若者がどう活躍してくれるのか観ていた。
だが、どんどんトーンダウン。
特に何もしないし、何の力もない。
剣術でも負けっぱなしなのに、なんだか偉そう?
途中からはアイヌが今の日本に思えてきた。
そして、あのラスト。
そんなことをしても何の救いにもならない。
マスターベーションに過ぎない。
折角2人のヒロインがいたのに、それを生かすストーリーにはできなかったのだろうか。
アイヌの娘の方は面差しはYUIに似ているような気がして、特に印象に残った。
世界は救えなくとも、身近な人の力にならなれように。
チタタプもヒンナヒンナも無い
寛一郎カッコいい
侍所属の男がアイヌと触れ合い人間になる
けっこうよかった
アイヌと和人の交流を描く。合戦の場面が殺気に満ちていて緊張感がすごい。松前藩の奥さんがお歯黒をしている。アイヌの入れ墨も本格的だ。アイヌの男たちがひげぼうぼうで、みんな本当に伸ばしていそうだ。
主人公がアイヌの村に、みんな逃げろと言いに来たのに村長が急に「オレたちはここで不通に暮らしているだけだ」とピントのずれた演説を始める。なんだこれ?と思っていたら主人公は感涙する。こういった演説のようないい話をするのが定番なのだろうか。
アイヌものと言えば、どこかでヒグマが大暴れすると思ったら話で出てきただけだった。
予想をうらぎる素晴らしさ。
和人である主人公がアイヌの村で暮らして未知の世界観と出会い自分の生き方や価値観を問い直すというのは「ダンスウィズウルブス」以来のお決まりのパターンみたいなところがあってまたかと思いながらも家族が北海道のアイヌの村を訪れて交流してとても良かったと聞いて以来、アイヌの人たちの事が気になっているので見に行きました。
舞台となった北海道の自然と役者さんたちの演技が素晴らしく物語の世界に引き込まれてしまいました。役者さんたち皆さん素晴らしかったですが特にサヘル・ローズさんの彫りの深い顔がアイヌの人のようで同じサヘルさんのことが同じアジア人として身近に感じられました。予告編にもあるように戦いの場面もあるのですがいわゆる残虐なシーンはなくてほっとしました。
少し残念なのは食べ物は分かち合って食べなくてはならない、独り占めして分かち合おうとしないのは神の教えに背くといった思想などの紹介などもあったらもっと良かったかなと思いました。
普段はパンフレットを買うことはしないのですがパンフレットを買ってみると写真がきれいで買って良かった額に入れて飾ろうかと思うほどです。映画を通じてアイヌの人たちの事をもっと知ることができればと思い行った映画でしたが映画そのものが素晴らしく映画館で見て良かったなと感じました。
シサムはアイヌ語で「隣人」という意味だそうです。世界のあちこちで戦争や対立が起こっている現在。大事にしないといけない言葉ですね。
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