「フランス映画100%」パリでかくれんぼ 完全版 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
フランス映画100%
濃度100%のフランス映画だったな、という疲れにも似た所感も宜なるかな、監督のジャック・リヴェットはかの有名なカイエ・デュ・シネマの編集長を務めた生粋のヌーヴェル・ヴァーグ的シネアストである。
長回しを基調としながらも役者とカメラの動線が緻密に計算し尽くされており、映像という境位においては無類の快楽性に溢れていた。特に劇中で幾度か挿入されるミュージカルシーンはどれも素晴らしく、映画が立ち上がる瞬間とミュージカルの始まる瞬間が見事なまでに重なり合っていた。とりわけ1度目のミュージカルシーンは映像の外側から流れる音楽と映像の内側で流れる作業音が絶妙な塩梅でせめぎ合っており、ショットが少しずつ緊張を高めていくスリルに満ちていた。
また役者に対するヌーヴェル・ヴァーグ的偏執も本作の場合はうまく機能していたように思う。ルイーズ演じるマリアンヌ・ドニクール然り、ニノン演じるナタリー・リシャール然り、カイエ周りのオッサンは「映画」という鉤括弧の外側においてはかえって奇形の謗りさえ受けていそうほどの超人的美女ばかりを起用する傾向がある。全盛期のアンナ・カリーナみたいなね、と思っていたところアンナ・カリーナも出演していた。ここまでくるともはやキモい…
とはいえ3時間の長尺ははっきり言って苦痛だった。やはりフランス映画は「フランス映画を観るぞ」という特別の気合いを入れなければ最後まで耐えられない。事務所から出てきた男をやにわに抱き寄せ熱い接吻を交わしたり、ストーカー男の手を取って踊り出したりする荒唐無稽を鷹揚に受け入れるためには、その都度自分の価値基準の中に西洋中心主義バッチをインストールする必要がある。
聞けばジャック・リヴェットは『アウト・ワン』なる12時間の超長尺映画も撮っているらしいが、そういうのはさすがに自国家や自言語の覇権性に乏しい第三世界の作家たちの特権だろうがと思ってしまう。大した抑圧もない世界の住人が12時間の映画を撮れてしまうというのは端的に言って異常であり傲慢だよな…とワン・ビン作品を観ながら改めて思うのでありました泣