「ジャッキーに敬意を」ライド・オン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ジャッキーに敬意を
今年で70歳、映画デビュー50年を迎えたジャッキー・チェン。
主演最新作となる本作で演じたのは、自身を彷彿させる役。
いつもながらのアクションとコメディ、ヒューマンドラマ、過去の作品のオマージュにも溢れ、円熟したジャッキー作品。
かつては香港映画界の名スタントマンだったルオ。
怪我で第一線を退き、今は愛馬チートゥと共に地味な営業回り。
ある日、債務トラブルでチートゥが競売にかけられる事に。
パートナーを守る為に、ルオは法学部学生の一人娘シャオバオに助けを求める。
そんな時ルオに、チートゥと共にスタントの依頼が。それは非常に危険なスタントであった…。
栄光に輝いていたあの頃から一転、今はしがない身。
ジャッキー自身は今も第一線で活躍し続ける一握りの成功者。が、運命が違っていたら…。哀愁漂うジャッキーの姿。
そんな男が再起をかけて。
今は落ちぶれても、弟子を育て、その中にはスターになった者もおり、慕われている。
弟子のツテでスタントの仕事が舞い込む。
自ら訓練を叩き込んだチートゥと意気揚々と撮影に挑むも、チートゥはまだ“新人”。土壇場で臆してしまう。
撮影もスタントも失敗。再起をかけようとしていたルオはうなだれる。
そんなチートゥを奮い立たせたのは、シャオバオ。撮影は成功。
ルオとチートゥは再びスタントで活躍。返り咲いたかと思われたが、ルオがスタント中に事故が…。
御年70歳のジャッキーが馬と共に見せるスタント。
やはりこの人はまだまだ動ける!
まあ確かに昔のようなド派手なアクションや超危険なスタントではなくなったが、それでも馬にまたがって。
馬を使ったスタントや馬との“共演”は初。70歳になっても新しい事に挑戦。
劇中の台詞。と言うか、ジャッキー自身のモットーであろう。スタントマンはノーとは言わない。
元々馬が好きだったと言うジャッキー。劇中でチートゥに向ける眼差しは本物。
赤ちゃんの頃殺処分されそうになったチートゥを助け、手塩にかけて育ててきた。言わば“息子”。
そのチートゥが可愛らしい。名演を見せた名馬…いや、名優でもある。
スタントマンは役者の代わりに危険なアクションを演じる。
スタントを立てず自ら危険なスタントをやって来たジャッキーがスタントマンを演じるのはよくよく考えれば噛み合わないが、自らたくさんの危険なスタントを体現してきたジャッキーだからこそ訴え、伝え、見せる事が出来た。もうそれは、ジャッキー自身なのだ。
危険はしょっちゅう。怪我も何度もした。命に関わった事も。そして今また…。
スタントの危険性。如何に危ないか。それでもスタントを続ける。スタントマン無くして映画が成り立たない時もある。スタントマンとしての誇り。
しかしそれは時に、自分のわがままにも。
仕事一筋だったルオ。家庭を顧みず、母が死んだ時も…。母は父娘仲の修復を願いつつ息を引き取ったが、シャオバオは許せない。
疎遠の父娘の和解のドラマでもある。シャオバオ役のリウ・ハオツンがキュート!
最初はぎこちない。シャオバオは会うのも嫌。が、次第に…。
父の娘への思い。第一線を退いた理由。
徐々に徐々に関係が良好になったと思ったら、すぐまた衝突する。
チートゥとスタントを巡って。
父のスタントへの誇りは理解した。でも、もうこれ以上危険な事はしないで。
それに、チートゥ。あの子はスタントの道具じゃない。家族なのよ。
同じ“子供”としてチートゥの本心を感じる。本当はチートゥはスタントを怖がっている。
チートゥを“息子”として愛しているのは間違いないが、共にやってきたスタントマン同士でもある。譲らないルオ。
シャオバオとの幾度もの言い合いで、スタントを辞める事にしたルオ。そんな時、今は人気スターとなった弟子から、一世一代の大スタントの話が。
スタントマンに敬意を。
そう言われ、再びスタントマン魂に火が付く。
これが最後の仕事。シャオバオも分かってくれる…と思っていた。
娘には伝わなかった。再び口論。
チートゥは…。
複雑な胸中と感情が交錯する中、ルオは最後の撮影に挑む…。
高い階段の上から馬と共に大ジャンプ!
でも実際は飛ばず、後はCGで。
いや、本当に飛ぶ。それがスタントマンだ。
周囲の反対を押し切り、自分でやる。
俺とチートゥなら必ず出来る。
ここで大スタントを華々しく決めるのかと思いきや…、
大ジャンプ直前、チートゥが急に立ち止まる。あわやルオは放り出されたが、怪我や事故には至らず。
前だったらチートゥに厳しく言ってたかもしれない。だがこの時、スタントを怖がるチートゥの心が初めて分かったのだ。
直前まで、ルオの中でチートゥとの日々を思い出す。
そして気付く。自分のエゴだった。
エゴで周りを巻き込み、自己満足していただけ。“家族”の本当の気持ちも知らないで…。
飛ぶのは簡単。でも、辞めるのは難しい。
今こそ、その難関に挑む時。
恥ずかしい事ではない。
家族や仲間を守る為。スタントマンとしての本当の強さ。
最後は自分に見切りを付け、勇退。
ちと意外でもあったが、しっくり来た。
いつの日か、ジャッキーが引退する時を見たような。
借金取りとのジャッキーらしいコミカル・アクションはあるものの、一括りにアクション映画ではない。ヒューマンドラマタッチ。ジャッキー・アクションが見たい人には物足りないかも。
ルオとシャオバオも和解しては衝突して、和解しては衝突して、何度繰り返すの?
ツッコミ所は多々あり、ベタでもある。
終盤のチートゥを巡る裁判。当初は有利だったが、劣勢に。負け、チートゥは奪われる。が、シャオバオらの助けや尽力、ルオとチートゥの絆を知り…。
やはりの展開ではあるが、望む形で終わってくれた。
スタントマンへの敬意、父と娘、馬との絆…。
劇中娘と見るNG集。我々も何度見たか分からないが、ここでこれがこんなにも胸熱くさせるとは…!
ベタな映画である。
それがまたジャッキー映画なのである。
ジャッキーに敬意を。
ジャッキー映画と言えば、私は昔から吹替で鑑賞。
ジャッキー=石丸博也氏。
2023年に声優を引退。が、本作の為に特別に復帰。
さすがに老いたが、今一度石丸ボイスのジャッキーを見れただけでも感慨しみじみ…。