「虚実のはざまで」八犬伝 たまさんの映画レビュー(感想・評価)
虚実のはざまで
タイトル八犬伝。
ここから、かの滝沢馬琴作、南総里見八犬伝の物語そのものを映像化したもの、とみる向きもあろうかと思われる。
かつて深作欣二監督、シナリオ鎌田敏夫、薬師丸ひろ子主演で映画化されてもいる。
今作は山田風太郎原作をベースにしているため、八犬伝そのものだけを映像化したものではない。
滝沢馬琴の実人生パート、劇中劇としての八犬伝パートを交え物語を進めている。原作未読ながらそのエッセンスを抽出しながら作られているものと思われる。
結論からいえば成功している面と、惜しい面が混在している。
上下巻ある原作を150分弱で見せ切るには、時間が足りないか。十分に長い時間ではあるが、キャラクターの掘り下げに今一歩深みが欲しい面。八犬伝の物語そのものの深みもまた
もうひと押しあれば、と思わなくもない。
しかしながら、この物語は作家が物語を創造してゆく苦悩、懊悩、実人生における犠牲をも描いており、深遠なテーマに挑んでいる。その点においては、滝沢馬琴その家族、挿絵を共に描く葛飾北斎との濃密な交流。鶴屋南北とのエピソード…など実人生パートにとりわけ、魅せるものがある。
映像であれ文字であれ、無から何ものかを創造することは生命を削ることに他ならないのだ、と強く思い至る。
それは比較対象にはならないかもしれないが、私たちみなが送る人生の時間も同様ではないだろうか…。
ベートーヴェンは慢性的な内臓の疾患に加え、40歳ころには耳がほぼ聞こえなくなっていた、という。
しかし第九など後世にのこる壮大な作品を残した。
馬琴も終盤盲目になりながら、口述筆記で八犬伝を完成させる。
監督曽利文彦、デビュー作ピンポンを漫画原作を忠実に映像化し、注目された。なかなかに魅せる。
滝沢馬琴に役所広司、さすがの演技。葛飾北斎に内田聖陽ひょうひょうとユーモア溢れる馬琴とのやりとりが素晴らしい。
寺島しのぶ、黒木華、と贅沢なキャスト陣。
物語パートの土屋太鳳、栗山千明。
中村獅童、尾上右近、立川談春…と。話題作に出演中の河合優実…豪華である。
VFXによる八犬伝物語にも見どころは多い。
80年代の深作監督作、山田風太郎という作家を再び浮かび上がらせた。その点においても意義深い作品である。
トミーさん、こちらこそありがとうございます。
八犬伝がどのように創作されていったのか、が伝わってくる映画でした。
おっしゃるよう自らの業といえる仕事、出来るのかどうか…
馬琴は創作し、生き切ったということなんでしょうね。
共感ありがとうございます。
山田風太郎の原作、それにこの映画、ファンタジーと呼ばれるモノの作り手の内面に触れる内容は興味深いですね。
何処まで自分の業とも言える仕事が出来るか、なんですかね。