「日本のサブカル先駆者」八犬伝 シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)
日本のサブカル先駆者
本作は予告編を見た時から見るのを楽しみに待っていました。
何故なら、予告で見る限り「南総里見八犬伝」の物語と、その作者である滝沢(曲亭)馬琴の物語と並行した物語であり、それに興味がそそられていました。
物語の方は、昔NHK連続人形劇「新八犬伝」(1973〜75)で初めて知り熱狂して見ていたし、それから関連して山田風太郎などの小説やアニメも色々と見て来たので、個人的には今回は作者視点の物語の方が興味があり、そちらの方で満足させて貰いました。
しかし、この方法では私の様な人間は満足しても「八犬伝」初心者の人には物足りなかったかも知れませんね。
精密には分かりませんが、物語パートと伝記パートを単純に二等分すると時間的にはそれぞれ70分程度で、あの膨大な長編物語をその程度の時間だとダイジェストというか粗筋程度にしかなりませんからね。(個人的にはそれで十分だったし、かなり上手くまとめていたとは思いますが…)
なので、それが原因で「物足りない」という感想もよく理解できます。
でも、映画ファンを名乗るなら元々原作モノ映画というのはそういうモノである事を念頭に置き、そういう存在価値であるという事を肝に銘じておくべきなのです。そして興味を持ちながらも物足りないと感じた人は原作を読むべきであり、それこそが原作モノ映画の存在意義なのですよ。
そして、私が馬琴の半生の方に興味があると言ったのは、元々偉人伝や伝記は大嫌いなんですが、この人が現在のサブカルチャーの始祖的存在の様に勝手に感じていたからです。
私が生まれて幼年期の最初に興味を持ち夢中になったのが漫画というサブカルチャーであり、それからずっとこの歳までそのサブカルチャーにドップリと浸かって来た人生であり、そしてこういう人間(私)が形成されたと思うと、それを作った先人の人達に興味を持つのは当然の事なのです。
私が、漫画を読み、小説を読み、映画を見て、他の様々なジャンルの表現に触れ、そこで考えたことや人生観に至る何か共通性やヒントが、そういう人達の言葉や行動の中に必ず隠されている筈ですからね。そういう意味で本作の現実パートに興味がそそられたのです。
で、本作の場合だと特に馬琴と鶴屋南北(歌舞伎の演出家又は作家?)の創作についての問答は最高に刺激的で面白かったです。
今で言うなら、娯楽とアート、商業(大衆の要望)と作家の志、人生の美しい部分だけを表現し夢を与えるか、醜いものを描き怖がらせ勉強させるか等々、あの短いやり取りの中に考えさせられる(考えて来た)様々な事柄が含まれていて非常に興味深かかったです。
しかしまあ、今やネット時代となり日本のサブカル文化が世界中に広まっている訳ですが、日本ではこの時代から大衆が人生を楽しむ術を持っていた事に対する誇らしさを本作を見て感じられましたね。
中国の「水滸伝」などはもっともっと大昔の書物でそれが誰の為の読み物だったのかまでは知りませんし他国の事までは詳しく知らんけど(苦笑)何はともあれ日本の誇れるサブカル先駆者の存在を再確認させて貰いました。