「真実は人の数だけある」ジョン・レノン 失われた週末 みる子さんの映画レビュー(感想・評価)
真実は人の数だけある
観終わって一番に感じたのはジョンの優しさだった。
彼はメイを愛していた。彼女が一番伝えたかったのもそれだろう。私たちは愛し合っていた!と。今回それ以外は、彼女にとって付録みたいなものだから、その点では成功している。
メイもひたむきにジョンを愛してきたのがわかった。この人に関心はなかった。売名とは言わないまでも、それに近いことはあるのかと思っていた。誤解だったかもしれない。同じ女性として彼女の切ない思いに共感する。
支えるだけではなく、音楽仲間や前妻シンシアとも親しくし、息子ジュリアンとジョンの橋渡しをしたのは、彼女の人としての大きさか。雇い主のヨーコの目もあったろうし、まだずいぶん若かったのに。家族や友人とは会うべきという信念があったのだろう。
ただ、度を超えた酒乱は、どんなに好きでも耐えられない。メイも逃げ帰ったと語る。ヨーコが別居に至った理由もそれだろう。音楽と酒やドラッグの相関性は、飲まない人にとっては、飲む人の言い訳にしか見えない。
この時期、音楽活動の合間にジョンが荒れた理由は何なのか。わからない。ヨーコと離れたせいか、ビートルズが解散したショックか。息子と離れた罪悪感か。アメリカ政府の目がうるさかったからか。
ヨーコは歳上だが、いかにもお嬢さまで支配欲が強く、わがまま。ただジョンを愛するあまりの拘束には彼女なりの真実があるはず。
陰で支える奥さんではなく、対等なパートナーであり、自分もアーティストとして前に出る。かつ愛し合い、共に生きようと理想に燃える姿はシンシアやメイのレベルを遥かに超えている。
かろうじてヨーコを悪者にはしていないが、事実の積み上げでそうなってしまっている。まあ秘書だった若い女性を愛人としてジョンに当てがうなんて、今の感覚ならとんでもないコンプライアンス違反ではある。
私は断ったけど、ジョンの方からアプローチしてきたとメイは語るが、おそらくジョンはヨーコに言われてその通りにした。ヨーコは差別を受けていたというから、違う人種の美女がジョンに近づくのだけは避けたかったのでは。
また夫婦としてやり直すために花束を持って会いに来てと言ったり、ボールにジョンを訪ねてほしいとお願いした(本当?)とか、かなり切ない。
ヨーコのもとに戻ったジョンは再出発し、その矢先に撃たれて伝説になった。
メイの意を受けた編集がうまく、はたしてジョンはどちらと人生を過ごすのが良かったか?とまで思わせてしまうのがすごい。
メイは別れた後も時々会い、また会う約束をしていたと述べる。ジョンの訃報について語るラストの余韻は深い。
若いひとときをビートルズではない人間ジョンと楽しく過ごした。時には息子と遊び、精力的に音楽を創る彼の姿を間近で見た。その思い出は誰にも否定されたくない。この映画は意外なほど自慢話には見えない。彼女の真実は豊かだった。
同じ女性側からの意見として興味深く読ませて頂きました。ジョン、ヨーコ、メイパンの心情や関係性がとてもしっくりきたというか腑におちました。50年も前のプライベートな男女のお話が今になって映画化してしまうというのもスーパースターの宿命なのでしょう。アルバム、ジョンの魂で痛々しいまでダメで情けない心の痛みや葛藤をさらけ出した人ですから、今回のダメ男ぶりも彼らしいなと改めて思いました。