劇場公開日 2024年12月27日

「平面空間とそこに刻まれし記憶をさまよう」占領都市 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5平面空間とそこに刻まれし記憶をさまよう

2024年12月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

まず前提として、これはレビュー星取りなどで易々と評価できない作品である。我々が慣れ親しんでいる映画の枠組みを超え、美術館のインスタレーションを体感しているような気持ちをもたらす4時間越えのドキュメンタリーだ。それも語り口として何かしらの起承転結があるわけではない。観客の目は彷徨う魂のように、人々が事実上の自由を奪われたコロナ禍におけるアムステルダムの街並みを漂い続ける。なおかつ、平面的な空間移動によって静謐に映し出される住宅、建造物、広場に添えてナレーションが淡々と物語るのは、この場所に刻まれた記憶。1940年〜45年のナチスドイツの占領下にあった時代にどんな状況や情景が広がっていたのかを、回想シーンを挟み込むことなく、観客一人一人の中に想像させる試みなのだ。考えるよりもどっぷり感じる映画というべきか。マックイーンの『ブリッツ』(空襲下のロンドンを駆け巡る劇映画)とも比較したい一作である。

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牛津厚信