国宝のレビュー・感想・評価
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凄絶なまでに美しく、醜い
凄絶なまでに美しく、そして醜い。
芸のために、何もかも捧げる生き様が。
3時間という長編を、
ただ、ただ、息を止めるように観た。
目の前にはスクリーンだけ。
台詞は絞られ、
役者の表情、声音から心の機微を感じ取る。それだけに役者の力量が問われる。
観客は、俯瞰して、ただ喜久雄たち歌舞伎役者の生き様をみていく。
家族を失い、
恋人を失い、
友を失い、
何もかもを失ってでも、ほしいもの。
見たい景色。
この映画を撮るにあたり、1年半歌舞伎の稽古をされたとか。ここまで歌舞伎を魅せることができるのかと、役者の恐ろしさも感じた。
これは邦画史に名を残す。
いま、観るべき映画。
人間国宝も軽く見られたもんだ
歌舞伎は1か月に1回位は観ている。ファンには悪いがいくらエンタメとはいえ、これは書かねばならないと思った。原作を読んでいないので映画だけの感想。
冒頭に、半次郎が喜久雄の踊りを素晴らしいと誉めるのが物語の始まりだが、この踊りがちっとも良くない。声もひどい。喜久雄がもっと小さくて踊れてスゴイと見込むならまだ理解できるが、15歳でこの程度なら踊れる役者は大勢いる。その1番大切な部分がおざなりだから、シラけてしまった。
そしてスポ根場面。今より体罰も許された時代だから、そういう指導者もいたかもしれない。しかし、よく年配の役者さんが「稽古が厳しかった」というのは、こういう意味では無いと思う。そして事あるごとに御曹司は血が守っていると言うが、それこそ歩き始めた頃から稽古をする精進の賜物なのにその様な説明が無い。まるでDNAにアドバンテージがあるかのように誤解させる。
半次郎が事故に遭いその代役でチャンスを得るが、「曾根崎心中」で渡辺謙が「お初」を演じる筈だったという設定はかなり厳しい。渡辺謙はどう見ても立役。一体全体、どういう個性の役者に描きたかったか不明。
喜久雄は途中舞台を離れヤサグレても結局人間国宝になるのだが、これまた説得力が薄い。彼の努力は取り立てる程ではなく、お客様を大切にするシーンは皆無で、芸の為に生活を律して何かを我慢した訳でもない。努力したのは高校生の時と、不遇の時代に芸ではなく卑劣な方法で上に取り入ろうとした時、悲しみを芸の肥やしにしてあとは才能で国宝になりましたとさ。それは現在の多くの役者、何より人間国宝に対して随分と失礼じゃないだろうか。
吉沢亮と横浜流星の女形はとても綺麗で頑張ったとは思う。しかし歌舞伎を観慣れた者にとって舞台シーンは至極普通。初めて早替わりを観た人は感激したのかもしれないが全然珍しくない。それなのに道成寺や曾根崎心中のワンシーンを演じただけで、すごいでしょの押し売りされても、唯一無二の特別感は伝わらない。画面が綺麗というだけで、どうして「人間国宝」の舞踊として観ていなければいけないのだろうかと、その違和感で変な気持ちになった。これは国宝じゃ無い。偽物だ。
任侠出の俳優の出世物語なら、それに相応しいタイトルを付ければ良い。その方が腑に落ちたし、エンタメとしてずっと楽しめた。
どうしても「国宝」というタイトルを付けたいのなら、役者が日夜どんなに地味に努力しているのかを、もっと丁寧に描くべきだった。歌舞伎役者と他の役者と、何がどう違うのかという事にも、監督は全く興味が無かったようだ。国宝というタイトルには程遠い、随分と薄っぺらい内容。これ観て喜んでいる日本人は、富士山、芸者と言って喜んでいる外国人の感覚なのだろう。
名作、そして役者魂を感じた。
息をする間もないくらいずっと圧倒され、終わった後は6時間くらい観ていたような疲労感でした。
いつもは映画を観ながら他のことを考えてしまうこともあるのですが、そんなこともできないほどの映画でした。
とにかくすごいものを観た、映画ってこういうものだよねというのが率直な感想。
予告で観たときは、歌舞伎も簡単にサラッと形だけやるだけだろうなと思っていたのですが、そんなことはなくかなり本格的に様々な演目があり驚きました。
最近は毎週映画館に足を運んでいますが、久しぶりにこのような名作を観ました。吉沢亮と横浜流星の役者魂も感じ、役者ってすごいなと感動しました。伝統芸能である歌舞伎を本格的に演じるのは、並大抵なことではなかったと思います。恐らくアカデミー賞、最優秀も獲るのではと。
学生時代の役者も良かったですが(怪物に出ていた黒川くんとか)、この役を市川染五郎と市川團子で観たかった。さすがに本物の歌舞伎役者では難しいのかな。でも、寺島しのぶが出ていたのはよかった。
井口理のエンディングの曲もとてもよかった。
薄っぺらく感じない映画を久しぶりに観たので、本当に良かった。とにかく圧巻。
ここ数年稀にみる傑作だと思う。
スクリーンに展開される美に圧倒された
二人の歌舞伎役者の半生を追った物語。
始まりは高度成長期が終わろうとする1960年代後半。
それから50年間。
2014年までの日本社会の変遷を背景に
歌舞伎役者の子と、その父の目にとまり部屋子として引き取られた少年。この二人の友情と葛藤を軸に物語は進行します。
興行主の気まぐれや、不慮の事故に伴う代役として大抜擢され
失敗するかもしれないという究極の恐怖と戦いながら着実に実績を重ねてゆく二人。
お互いの存在が心の支えだった若き日を過ぎて
大人として芸の道を歩み始めたとき、二人の前に立ちはだかる壁。それは血統と才能でした。
文字通り芸に命を賭けているからこそ
それぞれが自分が持たないものに対して血を吐くほどの苦しみを味わいます。
挫折や葛藤を繰り返し、二人の立場や評価は二転三転して入れ替わり、どん底の境遇で辛酸を舐める経験もします。
けれど、それでも歌舞伎以外の道を選ぶことがなかった二人。
そして梨園の頂点、人間国宝にまで上り詰めたときその目に写ったものは…
鷺娘、娘道成寺、曽根崎心中など素人でも粗筋だけは知っている演目に助けられて
予想よりもはるかに長い劇中劇ともいえる歌舞伎の舞台を楽しむことができました。
そして、通の目から観たら色々とあるのでしょうが、歌舞伎ド素人のわたしの目には主役二人の歌舞伎の舞台は輝くばかりの艶やかさで、改めて役者さんて凄いなぁ~という感嘆の念を抱きました。
3時間という長さを全く感じさせない、スクリーンに展開される美に圧倒された時間を過ごしました。
☆5じゃ足りないんよ
見どころは当代随一の若手二枚目俳優達の熱演
まず「国宝」という映画タイトルに圧倒。副題も無し、真剣勝負だ。映画化にあたっての重圧がどれほど大きかったか容易に想像できる。結果、その想像は期待を裏切らないと先に申し上げたい。
見どころは当代随一の若手二枚目俳優達の熱演だろう。
吉沢亮(主人公喜久雄)や横浜流星(俊介)の歌舞伎の所作が正しいかは歌舞伎初心者の私にはわからないが、彼らの凄まじいまでの稽古量と役への熱意はスクリーンより伝わってくる。扇子を持つ手がビシッと止まる。視線の合わせ方。
そして舞台の熱演を最高のシーンに昇華させたスタッフの熱意も十分に伝わる。
喜久雄は人生を芸の道に捧げる。極端な生き方をする彼に共感性を感じることは難しい。その孤独と執念がどのように報われるのか、それは舞台の上でしか答えは存在しない。映画の中の観客もそれを観る映画館の私達もその瞬間を待ちわび、目が離せなくなる。
歌舞伎の演目の選び方が良いのか、予備知識がなくても、すっと梨園の世界に入り込めるエンタメ性があります。美しい映像、心に響く音楽、そして圧倒的な演技。これらすべてを大スクリーンで体感できる、映画ならではの贅沢な時間をぜひ味わってください!
映画が小説を上回ったと感じたのは、春江と万菊。
観ました、国宝。
上映前からのプロモーションや配役の投資額が並大抵ではなく、絶対に失敗は許されない映画という印象。
李監督はじめ、プロデューサーの方々は相当プレッシャーだったのでは。
まず、圧巻の一言。
何度も胸が締め付けられた。
吉沢亮と横浜流星が見事だったし、若き頃の俊ぼんと喜久雄ももっと長く観ていたかった。
175分と言えども小説の上下巻をそのまま映画にする事は不可能なのか、ストーリーはだいぶ端折られていた。
この物語はただ歌舞伎を魅せるだけでも、ライバルの友情を語るだけのものでもない。
映画だけでなく小説も読んでおくと、年月が動いた際の背景が見えてくる。
映画が小説を上回ったと感じたのは、春江と万菊。
高畑充希の声のトーンがとても良かった。あの声のおかげで、なぜ俊ぼんについて行ったのか、愛する喜久雄に応える事が出来なかったのか、読み取れた気がした。
万菊は、小説以上に万菊。
声の出し方、所作、目線。全てが不気味で妖艶。素であんな人がいたらゾッとしてしまう。
印象的なのは喜久雄が屋上で白粉を落とさずに狂ったように踊るシーン。主役の座から降ろされ、出演出来る舞台もなく、からっぽ。
そんな状態であっても、踊ってしまうんだな。芸に魂を売った人間は。何と非情な事だろう。
ぜひ、映画館で見て欲しい。
映像も音楽も素晴らしい。
特に映画館内で地面から鳴るような、重低音に注目して欲しい。あの音がさらに胸を締め付けてくる。
終始、胸を締め付けられていたのだが、最後のluminanceの歌詞に心が救われた。
喜久ちゃんは、人間国宝で良かったんやんな。
圧巻の演技 吉沢亮の凄み
吉沢亮の演技に圧倒されました。
綺麗な顔は化粧をしても隠せず、仕草は女形の色っぽさがあふれ、最後まで夢を見せるような演技で息をのむシーンが沢山ありました。
子供時代の役者さんも目でも演技が凄くて、どこの子と思ったら怪物の子役と知ってこれからが楽しみになりました。
柳楽優弥みたいだと思いました。
横山流星もボンボンの演技良かったです。3時間近くが長く感じず最後まで集中して見れました。
残念かもと思ったのは女子の描写。
心情の移り変わりがあまりでてなかったのと、最後に向けて少しキュッとした印象でした。
国宝になる前の孤独と突き詰めた結果の国宝認定になった描写があれば最後もっとグッと来たかも。
ともあれ、本当に皆さんすごい演技で、魅せられました。
吉沢亮の代表作になるのは間違いないと思いました。
175分も長くはない
皆さん言われてるように、圧巻の一言。あの小説を約3時間に収めてるので、全てを入れ込めないのが残念なくらい、もっと観たかった。
主演の吉沢さん、助演の横浜さんは言わずもがなですが、他の俳優さんもそれぞれの役どころで作品を支えてくださってましたね。
まだ一度しか観てないので全てを語る事は出来ませんが、特にぐっと来た場面は喜久雄が半次郎の代役を務める舞台の、幕が開く前の楽屋のシーンです。予告でも少し流れてますが、自分には助けてくれる血(血筋)が無いと「俊ぼんの血を飲みたい…」と震えながら一筋の涙を流し、俊介に言うんですが、ほんとに切羽詰まった喜久雄の表情。そして予告の俊介の「芸があるやないか」のセリフと涙をぬぐってあげるシーン。胸が痛くなりました。
もう一つは、最後二人で踊った曽根崎心中。俊介演じるお初が軒下に隠れている喜久雄に心中する気があるのか?と暗に問うセリフがあり、お初の足を喉元に当てるというシーンです。実はこの前段階のところで、もう病気で左足を膝下から切断していて義足なんですが、もう片方も同じように壊死してしまえば両足とも切断だと言われてた。本番で喜久雄が掴んだ足は右足。すで壊死が始まってました…。必死にお初をやり遂げようとする鬼気迫る俊介と、その足を見て震えながら掴む喜久雄の心情を考えるともう涙が止まりませんでした。
これはほんの一部。何度か視点を変えて見てみると、もっと深く作品を知れるかもしれません。
当然、映画にする時点で全ては入れられないので仕方ありませんが、喜久雄と俊介に絞ったストーリーでよくぞここまで作り上げてくれたものだと思います。
命をかけて目指すもの
あっという間の3 時間
「素晴らしかった〜ぁ…」とため息まじりに連呼してるおばさま多数。
(もちろん道成寺のリズムで退席)
原作があるから映画のせいではないのだけれど、
「そんなの起きる!?」な、やりすぎエピソードが連発して、ちょっとドン引き。
そんなの抜きでも、設定だけで、じゅうぶんに見応えある作品になった気がするだけに。
少年時代をもっと見たいと思わせる序盤から、キャストが全員素晴らしい。
への字口の寺島姐さん、貧乏くじがお似合いすぎる森七菜ちゃん。等々、女優陣が良い。
「さらば、わが愛 覇王別姫」ぽいのを想像してたら、そんなの皆無。
もっと愛憎入りまじる人間関係を期待してたら、意外とあっさり。
肝心の舞台シーンは、カット割多めで誤魔化してるなあ。
そして、王道な終わり方。洋楽かぶれなエンディングソング…!!!
そんな不満もありますが、キャストが全員良いので、それを見るだけで料金の価値はあったと思います。
役者ってすげえ
吉沢亮をはじめとする俳優の演技、原摩利彦・井口理の音楽、圧巻
原作小説のファンです。本予告映像が良かったため期待して観ましたが……
期待を超えました。
あの長い小説を、映画として完成させたことに感激。
脚本、俳優、映像、音楽、どれも本当に素晴らしかったです。
主演の吉沢亮さんは、これまでにも出演ドラマや映画を観てなかなか良い俳優だなとは思っていましたが……こんなに素晴らしい俳優だったとは。喜久雄を演じる吉沢亮ではなく、喜久雄としてそこに在りました。
月光のような光を放つ喜久雄……圧巻の演技でした。
横浜流星さんら、他の俳優達の演技も非常に良かったです。
主題歌も、この映画を完成させる欠かせないピースとなっていました。
原さんの創る音、そして、King Gnuの井口理さんの歌声は、男でも女でもなく、時に美しい化け物ともいえる女形そのもののようで……畏怖の念を抱くほど。あの『国宝』を包み込む音楽が、歌舞伎の世界と一体になった喜久雄でした。
ひとつの道を究めようともがく人間の、美しさと恐ろしさ……あっという間の3時間です。たくさんの映画ファンに観てもらいたい作品になりました。
「バケモン」映画生まれる
ネタバレ注意
先に言うが、今回のレビューは3000字を超え
言わば大学のレポートのような感想となっている
それと同時にネタバレを語ってしまっている為、
見た人とこの作品にとてつもない衝撃を受けた人に
ぜひ読んでほしい。
自分がこの作品を一言で表すなら「バケモン」である。
それ以外にこの作品への表現が見当たらない。
ここ数年映画の表現の偉大さに取り込まれ、
衝撃を受けた作品は何本もある。「ヤクザと家族」「ある男」「正欲」「ラストマイル」これらは個性・特性が
とてつもない力が込められており、どの作品も素晴らしくその中でも1番を決めることができない。
私にとってそんな影響を受けた作品はここ数年で何本も出てきた訳であるが
「国宝」という存在を目の前にした以上他のことが考えられなくなったり、映画が終わって明るくなって数分間座席から立てなくなる程の虚無感を与えられた。
この表現が正しいかどうかは自分でも決める事ができないがただ、そう表現するのが適切かもしれない。
そんな感情になる程国宝という作品は主人公「立花喜久雄」の人生をバケモンのように描いていると私は考える。
何故「バケモン」と表現しているのか
それは喜久雄と俊介が初めて人間国宝 小野川万菊による
演目「鷺娘」を見た時に放ったセリフに
「バケモンや」、「バケモンでも美しいバケモンや」という
言葉を2人から出たのである。
そうしたように人間国宝の影響から2人の人生はとてつもない壮絶な時を過ごすのであった。
だからこそ私はそのフレーズを当てはめてこの作品への感想と賞賛を語りたい。
そして血の繋がらない兄弟以上の関係となっていく
「喜久雄」と「俊介」
この2人の織りなす生涯は観客の多くを魅了していき、かくいう私自身はとてつもない衝撃を与えたのだと感じる。
その上で私は吉沢亮と横浜流星にとてつもない賞賛を送りたいと思う。冗談抜きで2人の俳優にとっての代表作だと確信を得ただろう。
吉沢亮と横浜流星
横浜流星は以前から「ヴィレッジ」、「正体」など
藤井道人監督作品にエースのように活躍していき、
私自身も彼が大好きになった。
だからこそ「国宝」のメインキャストに横浜流星の名が見えた瞬間「あっ、これは間違いない作品だな」とキャスティング発表から期待がとてつもなかった。
だからこそ楽しみでしかなかった作品でもあったが、彼の表現や存在感は前評判の想像を遥かに絶していたと今になって考える。
上方歌舞伎の名門の御曹司として生まれた俊介にとっては喜久雄との出会いが壮絶な人生への歯車になっていった。次第に兄弟のような関係性として互いに歳を歩んでいったが、喜久雄の「バケモン」のような表現によって人生が目紛しく変わっていっただろう。そうした中で横浜流星という俳優は穏やかでありつつも怒涛のような演技をしていき、これからも敬愛せざるを得なくなっただろう。
そして吉沢亮
私が思うには彼の代表作に間違いなく名を連ねると確信し、彼の役者人生に大きな影響を与えたのではないかと考える。
私にとって吉沢亮のイメージとしては
「キングダム」や「なつぞら」など良くも悪くも「イケメン俳優」のような軽い印象しか持っていなかった。カッコいいのは間違い無いが、これまで彼の演技に心を打たれたことはあまり無かった。そして昨今でいえば彼自身のトラブルによって俳優生活に大きく影響を与えてしまっただろう。この後公開される「ババンババンバンパイア」も事件の当初で延期になる程「何やってるんだよ」としか思えなかった。ただ穏便に終息していったことによってこの作品も何とか公開にありつけたが、
だからこそ「国宝」という作品は間違いなく彼の名声を取り戻すチャンスであり、それ以上に彼の役者人生に影響を及ぼす作品でもあるだろう。
私がそう思える以上に彼の演技ないし表現は
タイトルの「バケモン」に当てはまることができ、この作品の圧倒的さを決定付けるものだったと感じている。
15歳半ばで父親を抗争で亡くし、母親を原爆の後遺症で亡くすという青年期から壮絶さを物語っていた喜久雄という主人公は次第に上方歌舞伎の名門に引き取られ、歌舞伎の世界に徐々にのめりこんでいく。最初は歌舞伎の素晴らしさに影響を受けながら表現のスキルが上達すると共に、人間国宝小野川万菊の出会いを契機に歌舞伎役者ないし自分自身の人生が目紛しく発展していく。いつしか兄弟のように歩んできた俊介の人生を狂わせる程の「バケモン」となっていっただろう。そうして彼は歌舞伎役者の血がないことをもがき苦しみ、いつしか悪魔と契約するほどの絶望の時期を迎えることになっていった。
再三言ってしまうが吉沢亮ないし立花喜久雄という人間の人生は「バケモン」であり、見る者の多くに衝撃を与え、飲み込んでいく。
そんな彼の生涯を描いた「国宝」という作品は
他にも「バケモン」と表現できる点がいくつも
あるだろう。
歌舞伎
本作の舞台でもある「歌舞伎」そして
「100年に1本の壮大な芸道映画」というキャッチフレーズはこの作品を表現する唯一無二の言葉であるが、私自身は歌舞伎を生で見たことがなく、数々の歌舞伎役者の活躍があるなどそんな軽いイメージしかなかった。そんなイメージしかなかったからこそ歌舞伎の表現ないし歴史は何百年、何万もの人によって作られていき、私も今日はじめて歌舞伎の世界を目の当たりにする運びとなっただろう。
「藤娘」「二人道成寺」「曽根崎心中」「鷺娘」
これらの演目は喜久雄にとっても俊介にとっても生涯に避けることのできない影響を与えたものである。2人の人生を壊していき、繋いでいき、そして国宝へと導いていった演目であるのだと心から思う。同時に歌舞伎を知らないからこそ私と同じように初めて触れる多くの観客がこの作品を通じて「歌舞伎」の壮大さや素晴らしさに魅了されたのだと間違いなく言える。
劇音楽
この作品を語る上で外せないのが、劇音楽であるだろう。端的に言ってしまえばこの作品の魅力を何よりも表現したのが劇音楽であり、この作品の壮大さを表現したのも劇音楽であるだろう。これらは作品自体を唯一無二の存在に仕上げてゆき、一つの芸術として作りあげていったのだろう。立花喜久雄と大垣俊介という2人の人間の壮絶な人生を完璧に表現していき、見る者多くの感情を乗っ取ったかのような音楽でもあったと何度も考えてしまう。
そうして「国宝」という作品を語る上で外せない劇音楽はエンディングテーマとして原摩利彦・井口理による「Luminance」で締めくくる形となった。
私自身の話になるが昔からking gnuが大好きで何度もライブに行くほどのファンであるがこれまでking gnuないしMILLENNIUMPARADEがエンディングを務める作品が何本も世に放たれていった。
昨今でいえば名探偵コナンや呪術廻戦などアニメ映画のテーマを担ってきたが、私にとって最も影響を与えたのは「ヤクザと家族」のEDのFAMILIAだった。冒頭にも名を載せたこの作品は「山本賢治」というヤクザの壮絶な人生を描いた内容でもあり、儚いエンディングと共にこのFAMILIAが流れた瞬間、2度と感じる事のできない感情に襲われたのだった。
だからこそ今回「国宝」という作品のエンディングに井口理が参加することで期待が更に上がったと共にエンディングに入るまでの約3時間の衝撃、そして井口理の唯一無二の歌声で作品が締めくくられることとなった。
だからこそこの作品の劇音楽ないしエンディングテーマは他の作品と似たようで似つかない
「バケモン」とも表現できるのだろう。
改めて音楽を担当した原摩利彦そして井口理に賞賛を送りたい。
映像
ここまでとてつもない長文でこの作品を可能な限り語ってきたが、最後に語りたいのは
「映像」である。これこそがこの作品を「バケモン」と語る1番の由縁であり見る者の多くを飲み込み、私自身もとてつもない衝撃を与えた要因の大部分にこの「映像」が当たるだろう。
「国宝」が織りなす映像美はどの作品と比べても唯一無二の存在であり、一つの芸術作と表現するような完備な仕上がりとなっていたと感じる。
映像美こそ本作の素晴らしさないし恐ろしさでもあり、「歌舞伎」「舞台」「背景」などと簡単には説明できないほどの圧倒さを持っていたと思う。だからこそこればかりは上手く表現できない感想でありつつ、それと同時に私自身の衝撃は見た人によって捉え方や感じ方は大きく異なっていくが、間違いなく感動や衝撃をこの映像によってもたらされるのだと何度も考えてしまう。最後に監督を務めた李相日、撮影のソフィアン・エル・ファニ、美術の下山奈緒をはじめとした「国宝」を作り上げた全ての関係者にとてつもない賞賛を送りたい。
「国宝」という作品は間違いなくこの数年での衝撃や影響を与えた作品に名を連ね、毎年良く私は1年間で映画館で見た作品ランキングでは今年の一本となっていくだろう。
現に見終えた数分後に翌日分のチケットを買ってしまったもしかしたらここまで語ったように捉え方や感じ方は明日になれば大きく変わるかもしれないが、この作品を見終わった数分間席を立つことができず、虚無感を与えられ、そして何よりもこのくらいの文量になる程の影響や衝撃を間違いなく受けた。
だからこそこの作品を私は改めて
「バケモン」のような作品が生まれたと感じる
美しく残酷で脆い芸事の世界で生きるということ
悪魔と取り引き
大作。演目は予習が吉。
大作。これはスクリーンで観てほしい。約3時間を短く感じることはなかったが、内容はずっしり。事前告知で窺い知れたあらすじのその先の人間ドラマが凄かった。
青年期の二人が思った以上に重責を担っており、吉沢亮・横浜流星へのバトンタッチが見事だった。私は黒川想矢の演技は怪物以来、越山敬達はぼくのお日さま・天狗の台所以来。着実に力をつけているタイプの違う若手で、選ぶ作品が良い。次が楽しみ。
キャストはご承知の通り脇もがっちり固まっていたが中でも田中泯の存在感は突出している。
歌舞伎を知らなくても楽しめるが、公式でも紹介してくれていた劇中の演目をさらっていった方がより理解が深まると思う。
メインの二人がこの映画のためにどれだけの準備を重ねたのか、終盤の鬼気迫る曽根崎心中は忘れられない。
この映画を背負って立つのはもちろん吉沢亮であり最後まで素晴らしかったが、血筋を背負ってしまったことによる俊ぼんの葛藤とクライマックスのあの演技を見て、横浜流星が支えなかったらこの話は成り立たなかったなと感じた。
歌舞伎のみならず日本の伝統芸能に潜む、血の滲むような努力と人間の業を垣間見たような気にさせられた作品。
無事世に出てきてくれて良かった。
全744件中、581~600件目を表示
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