「歌舞伎界はみんないい人ばかり(笑)」国宝 momonga1さんの映画レビュー(感想・評価)
歌舞伎界はみんないい人ばかり(笑)
大変見やすく、3時間飽きずに最後まで楽しい映像体験だった。
原作も事前に読んでいたが、率直に言って読後「?」がたくさんつき、これが原作でロングランの映画が果たしてできるのだろうか?という疑問と不安を抱えてスクリーンに向かったが、それは結果的に杞憂に終わった。レビューを見ると、脚本に関しては賛否あるようだが、私は、この映画の興行的勝利はまず脚本にあると言いたい。原作をかなり思い切って刈り込んであり、原作小説の中では重要な要素と思われるかなりの要素を取り除いた脚本になっている。これは、脚本家も勇気が必要だったろうし、恐らくここまで削って良いのか、制作サイドは議論になったのではないかと思うが、私は、削って成功だったと思う。その結果、見る側に行間を埋めるという作業を強いることになったわけだが、展開が早い一方、ここぞという重要なシークエンスは、しっかり尺を取ってドラマを作ってあり、メリハリの効いた映像作品となった。3時間、弛緩を感じなかったのは、早い展開でクライマックスの曽根崎心中まで早い展開で駆け抜けた、脚本の功績であると考える。
ドラマと歌舞伎のシンクロも効果的で、この映画の真骨頂はここにあったのではないか、それがこの作品に深みをあたえていて、好感を持った。ただ、私は、この映画で視覚的にも、またストーリーの展開は、やや作為的なジェットコースタームービーだったけれど、楽しんでみることはできたが、登場人物の生き様、あるいは役者の芝居に心から感動する、という深い体験にまでは至らなかった。その理由は何だろう?と自分でも考えてみたのだけれど、言えることは、二人の歌舞伎へ向かう姿勢に、哲学や思想がない、とにかくただ好きだ、ということで、それ以上でもそれ以下でもなかったというところにあるのではないか。もちろんそれだけでも良いわけだけれど、彼らの舞台に、観客とどう向き合うのか、観客に何を伝えようとしているのか、という理念や哲学が見えない。ただただ自らの演技の完成と役者としての出世を追求するという、閉塞的な世界に生きているが故に、普遍的な感動として伝わってこないもどかしさがあるのだ、と思われた。そして、映画の中の観客は、ただ拍手を送る集団として扱われていた。また芸か血筋か?というこの映画のテーマらしきものも、テーマになりきっていないし、そもそもテーマになり得ないだろう。
さらに登場人物がみんな「ちょっと欠点もあるけどそれなりにいい人ばかり」、常識的であり微温的であり、すごみのある人間がいない、という点が物足りなかった。恐らく原作にも責任があり、その原因は作り手が歌舞伎界に近づきすぎた、協力を得ることで悪い人間を登場させることができなくなった、歌舞伎の醜悪な部分を描けなかった、ということがあると思う。まあ忖度や遠慮ですね。その結果、いやな人、足を引っ張る人、意地悪い人、不幸を願う人、とんでもない悪人などは、一人もいない。歌舞伎界はみんないい人(笑)。せいぜいが稽古の体罰や、自分の娘を寝取られて蹴りつける程度。(私でもその程度では済ませないだろう・・・)そんなきれいな世界なのか?だから、この映画は見やすいのだけれど、生ぬるい。これも深く心を揺さぶられることなく、席を立った一因だと自己分析した。まあ、娯楽作だから良いんだけど、100年に一度の傑作と呼ぶには、足りない要素が見られた、というのが正直なところ。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。