「芸の世界は美しいだけではない」国宝 およよさんの映画レビュー(感想・評価)
芸の世界は美しいだけではない
話題になっていたので、全く前情報無しで視聴しました。
一言で言うと、「芸を極めるためにその他すべてを捨て、国宝になった男」の話です。
私は人の名前を覚えるのが非常に苦手な為、主人公格2人のことをシュン坊、キク坊(春菊)と呼んでいたのでこの呼称で進めます。
役者の子どもで血筋はあるがキクよりも才能は開花しなかったシュン坊、後ろ盾は何もないが誰よりも才能に秀でたキク坊の対比が美しく、それでいて深い絆で結ばれている為に単なる嫉妬や血筋争いで瓦解しない所に安心感がありました。
それでも、彼らは決して美しいだけの存在ではなく、性行為だってするし、利権や血筋による沙汰も行うし、暴力に走ったり酒に溺れたりもする。
そこに舞台の上での彼らとは違う、ドロドロとした人間らしさを感じて引き込まれる。
社会に揉まれて落ちぶれて、それでも秀でた才能や絆によって舞い戻り、進んでいくキク坊の姿は、決して順風満帆でも美しい出世物語でもない。
でも、世間から見ればそんなのはどうでもいい話。最後のインタビューで記者からきらびやかな道を通って国宝となったかのような言葉を投げかけられた彼は何を思ったのか。
病に倒れ死の淵に立っても共に歌舞伎をしたいと言い、そして成し遂げて死んでいった親友のシュン坊、キク坊の才能を見出し他者の反対を押し切って後継者に選んだのに、最後の最期で彼ではなく実の息子の名前を呼び続けた先代のおやっさん、文字通り魂を悪魔に売った彼の事を憎んでいるが、その歌舞伎の演技に圧倒され、憎みきれない実の娘……
失ったものの多さと、辿り着いた果ての対比に畏れすら感じる。
劇中の歌舞伎描写も圧巻。是非スクリーンで観てほしい。
一つ欠点を述べるとすれば、彼らの半生を描く関係で時間が飛ぶ事が多く、今の時代の作品にしては視聴者の解釈で補完しなければならない部分がある点だろうか。
私は気にならなかったが、説明不足と感じる人も出てくると思う。
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