劇場公開日 2025年6月6日

「頂点に立つための覚悟」国宝 asukari-yさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 頂点に立つための覚悟

2025年9月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

「順風満帆な歌舞伎人生を・・・」

映画のラスト、歌舞伎の世界で生き、人間国宝となった主人公:喜久雄に対してインタビュアーが質問する際に切り出したセリフ。

強烈な違和感を覚えました。

どこをどう見ればそのようなセリフを吐けるのか?しかし、考えるにつれ“これこそが本作の根っこではないか?”と思い至るようになりました。

 ストーリーとしては、極道の組長の倅である喜久雄は新年の余興で歌舞伎の女形を舞い、そこに居合わせた歌舞伎界の大物:花井半次郎の目に留まる。しかしその余興でカチコミに遭い父親は殺され、喜久雄は天涯孤独に。だが才能を感じた半次郎は喜久雄を歌舞伎界に引き入れる。喜久雄は半次郎の息子:半弥とともに歌舞伎に身を投じていく、てな感じです。

 主演に吉沢亮、半家役に横浜流星といま最も力のある若手を起用し、脇に渡辺謙や田中泯を据えています。特に田中泯はごぢゃ巧い!人間国宝:万菊役で出演時間はわずかながらもその貫禄と動きたるや圧倒モン。本職はダンサーといえこれは印象に残りすぎ!もう名優ですわ。

 ちょっと脱線しましたが、話を戻して。
タイトルからして、いかにして喜久雄は歌舞伎の世界で己を磨いていったか?という風に見ていました。持って生まれた才能に加えてどれだけの時間
向き合ってきたか。映画の序盤ではその要素が多く、才能とその努力に見合うように出世していくなあと観てました。歌舞伎のシーンも結構見応えがあり、「これは実際の歌舞伎も見てみたいなぁ」と思わせるほどの美しさ。これは実際の歌舞伎の話題も上がるんやないかと(素人目線で)思えるほどの見ごたえやったんは特筆に値するかと。

しかし思った以上に厳しい歌舞伎の世界。それは、

血(家)の重要性。

 家の伝統、血のつながりを極端に重要視するこの世界。どれだけ努力しても抗えない壁。半次郎が亡くなって後ろ盾がなくなった後、喜久雄に降りかかる災難と失意の連続。しかし、そういったことを経験し、それに抗い続けてこそ何かを得れるのかもしれない。作中で人間国宝:万菊は才能ある喜久雄より先に半弥の稽古を見たのに違和感を覚えたが、喜久雄が失意の底に落ちたのちに万菊が声をかけた瞬間、そういうことなのかと思ったんです。

 なにごとも順風満帆ではない。酸いも甘いも知り尽くしてやっと一人前。

ということなのかもしれないが。しかしそれだけではないと思う。喜久雄は歌舞伎を極めようとし、多くの犠牲を自分にも他人にも強いてきている。その中には人の人生まで狂わしてしまうほどのことをし、それでも歌舞伎を続けたい一心で舞っている。その時に思うんです。

 頂点を極めるには、多くの犠牲を自分にも他人にも強いている。

 どの世界でも頂点を極めるにはそれ相応の“努力と犠牲”があると思ってはいたが、本作はそれを具現化してるのではないか?光が強いほど影は濃くなる。影の部分だけに表には出てこないが、でもそれがあってその人が出来上がっている。だからこそ、冒頭に述べたように強烈な違和感を覚えたんやと思うんです。

 表面だけを見るな。光だけを見るな。想像できないような苦しみと負の部分が隠れてるんや。そういった積み重ねがあって頂点で輝く資格を持ってるんや。

 登り詰める過程で起こる栄光と苦悩。冗長的な部分はあるも歌舞伎の美しさもあって175分でも結構魅入ってしまう作品です。良作です。

asukari-y
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