劇場公開日 2025年6月6日

「あまりにも美しすぎた」国宝 あんのういもさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5 あまりにも美しすぎた

2025年9月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

知的

 廃れつつある日本の伝統芸の一つである歌舞伎の女方に焦点を当てた映画「国宝」。若者が関心を寄せる若手俳優の吉沢亮、横浜流星などを起用しつつ、大御所俳優の渡辺謙を起用することで若者だけでなく幅広い世代、さらには海外まで視野に入れたキャスティングに説得力があった。原作は800ページにも及ぶ長編小説だが、それを約3時間に凝縮した本作には美しさと、物足りなさが共存している。
 とにかく映像が美しかった。歌舞伎シーンの美しさ、女方の艶かしさ、妖艶さには目を見張る。ただそれを見るためだけに映画館に足を運ぶ価値があるほどに圧巻だった。
 一方で物語があまりにも軽い。ストーリーや人間関係は本来、重く、濃密で、粘りつくような関係性を持つはずなのに、あまりにも軽く、訴えかけてくるものがない。それを理解はできるが、感情に残らない。それを表現し、伝えるにはあまりにも時間が足りなかったように思える。沼底の泥臭く濁り切った汚濁の如き人間関係を、読んで字の如くその上澄みだけを掬ったような薄く透き通った味気ないものに感じ、非常にもったいない。また、タイトルである「国宝」にも疑問が残る。作中において国宝の意味が十分に語られることはなく、誰が、何を目指し、何を失ったのか全く見えてこない。このタイトルが掲げるべき重みと、物語の実態とが釣り合っていないように思える。
 結果としてふとなる人間関係の描写が不足していたために、正としての歌舞伎がただただ美しいだけのものに見えてしまった。本来であれば、この汚れ切った人間関係と異常な程に美しい歌舞伎を対比させることで、強烈なインパクトを生むべき作品だったのではないだろうか。
 しかし、私が「歌舞伎を見に行ってみたい」と思ったこと。それ自体がこの映画の持つ力であり、評価すべき点なのだと思う。

あんのういも
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