「まさに『国宝』」国宝 MP0さんの映画レビュー(感想・評価)
まさに『国宝』
流行りものには基本的に乗っからないクチなのですが、黒木瞳さんのラジオで李相日監督がゲストの週があって、これは動画配信ではなく大きなスクリーンと良い音響で鑑賞したいなと思い遅ればせながら今になって鑑賞してきました。
日本の映画はアニメが興行収入上位を独占してしまい、実写映画にかつての勢いが感じられず、アニメもクオリティ高くなってきて悪くないけど、歴史ある映画館も閉館するなど大きな節目を迎えていると感じています。
そんな中で3ヶ月のロングランも納得の傑作、日本映画の底力を感じました。
日本の芸能界は任侠、現在の反社とも決して浅からぬ因縁があります。そうした中で任侠の世界に生まれ、歌舞伎の世界に飛び込む主人公の境遇は皮肉的であり、またドラマチックでもあります。
また因縁という点で言えば歌舞伎座の落成を機に少なくない不幸が梨園を襲った事もあります。
何処か作中の襲名式での事件に始まる過酷な運命も、そんな現実の韻を踏んだ描き方とも捉えられそうです。
タイトルの『国宝』には幾つかの意味がかけられているのでしょう。
まず歌舞伎という日本の無形文化遺産という日本が誇る文化・芸能としての"国宝"
田中 泯演じる小野川万菊という"人間国宝"の晩年の慎ましさと変わらない優しい手招きの表現、そして藝を極めた者の執念。
そしてなんと言っても"人間国宝"に至る吉沢亮演じる喜久雄の人生をまるごと舞台にしてしまう大胆さと残酷さ。
作品のポスターなどにも使われている二人の女方、苦難を互いに乗り越えてきた相方の俊介の人生。家名と血と藝の重み。
曾根崎心中の二人の絡み、壊死した足に顔を乗せて、転んでも立ち上がり演じ切る姿と刀で本当に殺してしまうのではないかという二人の泣きながらの演技。
多くの人に支えられ、犠牲にして、悪魔に魂を売っても高みを目指した万菊の晩年の舞台とコントラストになる冒頭の雪景色。
音響も演出も、カメラワークも魅せられました。
安っぽい言い方になってしまうかもしれませんが、この映画を機に歌舞伎に興味を持つ人が増えたら良いなと思います。
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