劇場公開日 2025年6月6日

「世間の反響と自分の感性」国宝 コブさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 世間の反響と自分の感性

2025年8月23日
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鑑賞方法:映画館

一言でいえば、どうにも腑に落ちない。その違和感が作品内容に向くのか、世間の評価との感性ギャップに由来するのか——現時点では判断が揺れている。

とはいえ、映画そのものの魅力は確かだ。まず歌舞伎の場面はどれも圧巻。静と動の所作の美しさと張り詰めた緊張が、歌舞伎に明るくない自分にもまっすぐ届く。「役者は何にでもなれる」という可能性を、同じ日本人俳優から感じられたことが何より嬉しく、誇らしい。

その演技を支える演出もとても良い。日本の舞台特有の“空間”と“色彩”をきちんと際立たせ、緊張を増幅させる。劇場で一度は体験すべき臨場感があるし、時代がパッと移り変わるたびに前のめりにさせる構成も巧みだ。

一方で物語は、いまだに腑に落ちてこない。喜久夫が一度“地の底”まで落ちるまでは、「この先どう転ぶのか」という期待が続いたが、終盤の畳みかけは早足に感じられ、ラストの感動へと十分に収束しきれていない感じがした。
特に後半はここまで紡いできた物語の線が面にならず、感情の導線を歌舞伎の演出でどうにか繋いでいる印象だった。
春江についても、なぜ俊介を選び、最後まで平然とあの場に居続けられるのかという疑問が勝り、映るたびにノイズになってしまった。
突き詰めれば、喜久夫以外の感情を慮るための描写が不足しており、長尺の作品であってもなお足りない——それほど原作が濃密だという裏返しかもしれない。

多くのレビューや感想動画を当たってみたが、腑に落ちる解釈には出会えなかった。自分が乗り切れないのは、洋画的な視点に慣れたせいか、細部のニュアンスを取りこぼしているのか。何か見落としているのではという不安が残り、いまの感性に強くは自信を持てない。それでも率直な感想としてここに置いておく。

コブ
コブさんのコメント
2025年8月26日

落語初心者さん、コメントいただきありがとうございます。
原作がただでさえ上下巻あることに加えて、あの圧巻の歌舞伎のシーンを組み込むとなると、脚本の奥寺さんの苦労も察せられます。
前後編に分けたり、ドラマにしたりするなどあったかとも思いますが、一本の映画に納めたからこその評価だとも思います。
制作側と観客側の双方の歩み寄りによって高めあう作品というのも、一つの映画のあり方かもしれませんね。

コブ
落語初心者さんのコメント
2025年8月25日

実際に撮影して4時間半くらいあったものを3時間にしているようですから、編集面で苦しかった部分はあるだろうと予想します。腑に落ちないとおっしゃっていることはとてもよくわかりますね。だからこそ、原作が売れているんでしょう。もっと知りたい、理解した上でまた映画を観たいと思う方が多いのだと思います。限られた時間であの内容を伝えなければいけない訳ですから…あとは、観客側の想像力で補完していくしかできないかと。

落語初心者
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