「魅入られし者」国宝 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
魅入られし者
凄かった。
吉沢亮は天才なのか?
素人目には全くもって歌舞伎役者のしかも女形の逸材に見える。首の角度から指先に至るまで、全身に纏う所作事に見事なまでに隙がない。
横浜氏もいい仕事してた。
最後の曽根崎心中には家系の血統を感じた程で、才能でも凌駕できない何かを見たような気にもなった。
晩年の白虎を演じた謙さんは仲代さんを彷彿とさせるし…なんか色々凄まじかった。
それを演出した李監督の凄まじさよ…。
魂でも焼き付けろと言わんばかりの構成だった。
3時間の長丁場なれど、生き様を描くわけだからそれでも足りないぐらいであろう。
世襲制の歌舞伎界に、稀有な才能を有する逸材が取り込まれていく。花井家の御曹司とそこに引き取られた養子の話だ。よく出来てた。
御曹司の劣等感も、養子の狼狽も。
節目の曽根崎心中で魅せた吉沢氏…アレを作り上げるのにどれ程の稽古をしたのだろう。役作りって言葉を当てるのが申し訳ない程で、それこそ劇中にもあったけど骨格から変えていったと言われても納得してしまう。
曽根崎の初演…そりゃ御曹司も居た堪れなくなるわ。
舞台に立つ吉沢氏は、役に必要なもの以外何も見えてないくらいの没入感があった。
海外の役者のソレとは違い、内に内に掘り進めるような没入感だった。
2人とも挫折と葛藤を繰り返すも歌舞伎から離れようとはしない。御曹司は離れられないような部分もあったけど、吉沢氏の方はしがみついてるようでもあった。
ストイックって言葉を使いはするが、そんな類いのものではなく、何かを我慢するのがストイックだとは思うのだけど、それしか要らないはストイックとは言わないんじゃないかと思う。
他に欲しいものがない。
「神様に頼んだんやない。悪魔と約束したんや」
抜群に的を得た台詞に思う。
またこの2人が仲が良いのが小憎らしい。
名代を奪われるって「死」と同義な世界だろうとも思うのだ。が、飲み込む。
吉沢氏に朱を差す横浜氏は…どんだけいい奴なんだと思う。押し潰されそうな吉沢氏から始まるこのシークエンスはとてもお気に入りだ。
作中の時間はどんどん過ぎて、吉沢氏が人間国宝に認定される。ホントに見事だなぁと思うのだけど、吉沢氏の衣装を直すカメラマンが娘さんならいいのになぁなんて事を思う。彼に触れる指先がなんかとても優しかった。そしたら、娘さんだった。
「あんたの事、お父ちゃんやと思た事は一度もない。色んな人傷つけて何が人間国宝や。せやけど、そんなあんたの舞台を見て気がついたら無茶苦茶拍手してた。お父ちゃん、ほんまに日本一の役者にならはったんやなあ」
こんな台詞が、楽屋から舞台袖にスタンバる吉沢氏とカットバックされる。
「隔世」って言葉を思い出した。
仏教用語だったか、現世とは違う冥界だったり幽界だったりを差す言葉だったか、また神の視点から見る現世を示す言葉だったか定かではないし、こんな漢字だったかも覚えてない「幽世」こんな感じだったかもしれない。
が、舞台に向かう役者の心情ととてもリンクしてて、舞台の上には一切を持ち込まない覚悟なのか礼儀なのか、そんなものを感じてた。
国宝と呼ばれるに相応しい佇まいをその姿から感じてた。
いや、ホントに凄かった。
題材が題材だけに、説得力が必要不可欠で、踊りもそうだし、発声もそうだし、何より芝居が誤魔化せない。
舞台であるならばUPがないからソレを表現する事は出来る。が、客に目の奥まで覗き込まれるようなアングルでは逃げようがない。
逃げる気も更々無いんだろうけど、地力が問われるというか、真価を量られるというか…今後の役者人生を左右される程の現場ではなかったのだろうか。
今までJOKERを演じたホワキン・フェニックスが鳥肌立つくらい圧巻だったんだけど、日本の芸能界にもそこに並び立つ逸材がいたと思えたわ。
あと…田中泯さんの悍ましさが群を抜いてて、彼1人で歌舞伎界の因習だったり系譜だったりを一身に背負ってて、闇が深かったわー。
やー、あてられっぱなしだったなぁ。
最後のインタビューん時の吉沢氏の肩幅とか、もっと撫で肩になってる方もいるけれど骨格を制御しなきゃ出来ない姿だったもんなあ…凄かったです。
U-3153さま
レビューに魅入られました🙂
>「神様に頼んだんやない。悪魔と約束したんや」
>抜群に的を得た台詞に思う。
引用したい文章がたくさんあり過ぎるのですが、レビューのタイトルに選んだこの台詞を🫡
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