「日本版「セッション」」国宝 nnrさんの映画レビュー(感想・評価)
日本版「セッション」
血と盟友と家族、すべてのものを悪魔に捧げて初めて辿り着ける境地、人間国宝。
「セッション」では成長や努力といった狂気を巧みな映像表現によって描いていたが、本作では「血筋への渇望」や「継父、盟友との死別」など、かなり記号的なストーリー上の事実を積み重ねているだけのように感じる。
芸を極めるために、家族を捨てることで得たもの、継父や盟友との死別を乗り越えた先で得たものというのが描かれていない。芸に邁進する姿というのも中盤以降あまり描かれず、
なぜ人間国宝に辿りつけたのか、辿り着けなかった者と何が違うのか、かなり不明瞭に感じる。
芸以外のものをなぜ捨てる必要があったのかを描かないと「つらい経験をして人間として強くなった」という非常に曖昧な結論にしか辿り着けず、説得力に欠けると思う。
画作りは圧倒的にきれいで、役者の演技も素晴らしいのでぱっと見は良い作品に見えるが、冷静に考えるとストーリーの重要なところは非常にぼやけている。
極めつけは最後の鷺娘。このシーンは歌舞伎以外のすべてを捨てた結果を示す、本作で最も重要なシーン。息を飲むような、あるいは息をすることすら忘れさせるほどの演技、演出が必要になるだろう。
しかしこのシーンではBGMを大音量で流していた。私にはBGMでごまかしているようにしか見えなかった。音楽が大音量で流れているから感動するような、そんなに簡単に人の心は動かない。実際の歌舞伎で流れるはずのない音楽を流すことで凄みを嵩増しして人間国宝を表現しようとするなんて、安直すぎる。
セッションと同様のテーマにしては説得力に欠けるし、そうでなければただ主人公の皮肉めいた人生を描くだけの作品に成り下がる。
画作りがすごくよく、役者の演技も良かったと思う。この映画独特の雰囲気がかなりあっただけに残念な一作。
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