「所詮は芸能の世界。普遍性を求め過ぎてはいけないのだろう。」国宝 はるさんの映画レビュー(感想・評価)
所詮は芸能の世界。普遍性を求め過ぎてはいけないのだろう。
地方都市のヤクザの親分の息子が縁あって歌舞伎の世界に紛れ込み面倒臭い人間のしがらみに翻弄されながら人間国宝になってしまう。そんな西洋のお伽話のような話。
いずれにしてもハッピーエンドで終わる。しかしながら主人公はそんなに嬉しそうでもない貌を浮かべる。得たものと亡くしたものを天秤に架けて、これはちょいと損してしまったんじゃないかと想いめぐらせているかのように思える表情をする。それがなんとも浅はかなように思えた。歌舞伎の世界を意地悪く暴き立てるでもなく、素晴らしい世界だと賛美する訳でもない。所詮は一般人が日々過ごす理不尽さに満ちあふれた世界と変わりはなく特別な世界なんかじゃないと認識を強いられるだけだった。しかしながら映像は煌めく銀河のように輝き見入ってしまうのは歌舞伎の舞台を映画にしてしまったからなのだろう。
正直言えば歌舞伎という芸能があまり好きではない。幾度か付き合いで東銀座の歌舞伎座に足を運んだことがある。オペラは初めて観劇した瞬間に惚れてしまうかどうかが決まってしまうと誰かがそう言っていた。それとよく似た感覚。
あの大仰な台詞回しと豪華絢爛たる衣装が・・・あまりにも現実離れしているから、どうにもこうにもこれは嘘だな!と思ってしまう。これがいけないんだろう。谷崎潤一郎が陰影礼賛で書いていたように歌舞伎は陰影の芸能なのだ。
そんな歌舞伎の世界を舞台にくりひげられたこの映画は歌舞伎座来場者増幅させるには最高の映画である。しかしながら安心を売り物にする山田洋次じゃあるまいし危険を売っても無良かったんじゃないかと思ったりする。
寺島しのぶ演じる花井の女房にとことん憎しみを抱かれたまま人間国宝を辞退して旅回りの女形役者として旅たち、美意識から解放されてもなを美しく舞う姿で終わるのも良いのではないかと思う。
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