「恐ろしく美しい不気味な化け物」国宝 aさんの映画レビュー(感想・評価)
恐ろしく美しい不気味な化け物
才能を見込まれた少年・喜久雄が“人間国宝”に至るまでの道のりを描いた芸道映画。
サスペンス的な展開を想像していたが、実際は“歌舞伎”という日本芸能の美と狂気を掘り下げる、濃密な人生の物語だった。
喜久雄を演じた吉沢亮と黒川想矢、どちらも素晴らしい演技力で、とても美しかった。
歌舞伎を実際に観たことはないが、演出や所作も本格的で、クオリティの高さを感じた。
「芸」のシーンだけではなく、芸に呑まれ、道化のように荒れ果てた吉沢亮の姿は、強く印象に残った。
⸻
「ずっとそばで応援する」と言っていた春江が、俊介のもとへ行ってしまう展開には、しばらく腑に落ちないモヤモヤが残った。
だが、おそらく春江は、喜久雄の“圧倒的な芸”を前に、凡人である自分にはそばにいる必要がないと悟ったのだろう。
そして俊介もまた、その芸に打ちのめされ、本気で芸と向き合う決意をする。
圧倒的な芸の前で、2人は寄り添うしかなかったのだろう。
血筋だけでは到底届かない「芸の力」が、当たり前の人間関係さえ断ち切ってしまう。
「歌舞伎」という道は、人並みを逸脱した世界であること——「悪魔との契約」という言葉の意味が静かに迫ってくる。
⸻
実子を差し置いての“名”の襲名。
唯一の後ろ盾であった恩師の死。
スキャンダルによる孤立。
そして、俊介の帰還。
純粋な娘の心を利用しながら、
自暴自棄に荒れていく喜久雄——。
そこから、なぜか唐突に人間国宝・万菊に認められ、復活。
俊介との再共演、そして彼の病——。
端折られている描写も多かったが、彼の芸の人生がいかに壮絶であったかは、十分に伝わってきた。
そして最後に辿り着いた景色。
あの舞台は、不気味で、美しくて、恐ろしくて——。
魂を削って舞う姿は、観る側の体力までも削ってくるほどの迫力だった。
⸻
全体として、確かに「すごい映画」だった。
ただし2時間40分という長さは、想像以上に体力を要する。
途中で席を立つ観客も多く、少し気が散ってしまった。
個人的にも舞台のように中休憩が欲しいなと思ったので、
できれば体力のある昼間に観るのをおすすめしたい。
それでも、濃密で圧倒的な“芸”の世界を垣間見られたことは、間違いなく忘れがたい体験だった。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。