「撮影、俳優、脚本、及び監督が凄い、久しく見ていない芸術至上主義の映画に拍手」国宝 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
撮影、俳優、脚本、及び監督が凄い、久しく見ていない芸術至上主義の映画に拍手
李相日 監督による2025年製作(175分/PG12) の日本映画。配給:東宝、劇場公開日:2025年6月6日。
歌舞伎はこれまで全く見たことは無かったし、李相日監督作も、ソフィアン・エル・ファニ(チュニジア系フランス人)撮影監督の作品も初体験。
とても印象に残ったのは「にじり寄る」様なカメラワークだった。冒頭、少年時代の主人公・喜久雄の背肌に白粉が塗られる映像から物語は始まる。以降何度も登場する首筋、目尻、手先、指先等、身体の一つ一つを捉えるクローズアップは、美しくどこか官能的でもあり、人物の迸る感情さえ感じさせ、とても気に入った。
主人公喜久夫の少年時代を演じたのが15歳の黒川想矢(高校生)。歌舞伎界の名門当主の花井半次郎が、彼の演技の才能に魅せられるという展開で、それを説得力を持って見せるという難易度の高い役を見事にこなし、この子の演技は凄いと驚かされた。「怪物(2023)」の演技も驚くほど優れていたので、本物の天才子役や!と思わされた。
勿論、ヤクザの家に生まれながら歌舞伎界の人間国宝と変貌していく喜久雄(花井東一郎)を演じた吉沢亮の奥が見えない様な表現者としての能力には脱帽。年輪を重ねた末の人間国宝の老けメイクの出来は今ひとつと感じたが、カメラを通した吉沢の神がかった歌舞伎演舞の美しさが大きな感動につながった。
脚本は「コーヒーが冷めないうちに」の会話が素敵だった奥寺佐渡子。この映画のヒロイン春江(高畑充希)は、プロポーズされたあの夜「一番のご贔屓になって、特等席でその芸を見る」みたいなことを言っていた。そして紆余曲折はあったが、国宝となった喜久雄(吉沢亮)の舞台を観ている春江の満足げな姿に、あの夜に話した言葉を叶えていることに気づかされる。喜久雄と同じく背中に刺青を入れた彼女も、歌舞伎の世界で一目を置かれる存在となったのだと感慨を覚えた。
ただ、御曹司花井半弥(横浜流星)に走ったのが、芸一筋で凄みを出しつつあった喜久雄に傷ついたもの同士としての同志愛からであったのか、それとも将来までを考慮した喜久雄への深い愛による計算なのかは、それらが混在していたのかは分かりにくい部分があった。脚本も高畑の演技も、最後の様には感じさせたが、もう少し示唆的なものが欲しかったかも。
対照的に、喜久雄と一緒にドサ周りまでした著名歌舞伎役者の娘・彰子(森七菜)は、「どこ見てんの」と問い詰め、彼が踊り狂った屋上から降りた後は、映画には登場せず。原作とは異なり、彼の元を去ったということか。見返りを求めてしまう、お嬢様育ちの限界という設定なのだろうか?
一方最初から愛人として生きぬいた芸妓・藤駒(三上愛)は、彼の娘綾乃をもうけ、あの娘は写真家 (瀧内公美)として本物の芸術が分かる優れた女性に成長した様。
子どものときに父親である喜久雄が神社で願掛けをしているのを見かけ、「悪魔と取引した、日本一の歌舞伎役者になれるように」と言われた綾乃。人間国宝になった喜久雄と再会したとき、「悪魔さんに感謝やな」「あんたのことお父ちゃんだと思ったことなんかいっぺんもあらへん」と恨み節を伝えながらも「しかしそれでも、客席から見てると正月を迎えるような何か良いことが起こりそうな気分に満たされて、気がついたら思いっきり拍手をしていた」「本当に日本一の歌舞伎役者になったんだね」と話す。
原作には無い台詞らしい。恨んでいた人間さえ喜久雄がたどり着いた至高の芸術を讃えており、感動もさせられた。脚本の奥寺佐渡子、凄い!
国宝となった喜久雄による最後の「鷺娘」は、本当に美しかった。そして、多くを犠牲にして芸術家たる彼がやっと手に入れた至高の景色、李相日監督も映画作りにそういった境地を目指しているということか。今後も大きな期待ができる監督の様だ。久しく見た覚えが無い芸術至上主義の映画を、今作り上げたことに大きな拍手をしたい。
また、画期的な映画を企画・プロデュースしてくれた村田千恵子(鬼滅の刃で有名なANXの子会社ミリアゴンスタジオ)にも感謝 。マーケティング主導ではなくクリエイターのビジョンに寄り添うものづくりを目指しているとかで、今後も期待。
あと、とりあえず人間国宝となった歌舞伎役者の演舞映像や、この映画に登場の歌舞伎演目(関の扉、藤娘、連獅子、道成寺、曽根崎心中、鷺娘)のストーリー確認や映像視聴に今は夢中となっている。演目内容が映画のストーリー展開に沿って綿密に選択されていたことを、あらためて知った。
監督李相日、原作吉田修一、脚本奥寺佐渡子、製作岩上敦宏 、伊藤伸彦 、荒木宏幸 、市川南 、渡辺章仁 、松橋真三、企画村田千恵子、プロデュース村田千恵子、プロデューサー松橋真三、撮影ソフィアン・エル・ファニ、照明中村裕樹、音響白取貢、音響効果北田雅也、美術監督種田陽平、特機上野隆治、美術下山奈緒、装飾酒井拓磨、衣装デザイン小川久美子、衣装松田和夫、ヘアメイク豊川京子、特殊メイクJIRO床山、荒井孝治 、宮本のどか、肌絵師
田中光司、VFXスーパーバイザー白石哲也、編集今井剛、音楽原摩利彦、音楽プロデューサー杉田寿宏、主題歌原摩利彦、 井口理、助監督岸塚祐季、スクリプター田口良子、キャスティングディレクター元川益暢、振付谷口裕和 、吾妻徳陽、歌舞伎指導中村鴈治郎、アソシエイトプロデューサー里吉優也 、久保田傑、 榊田茂樹、制作担当関浩紀 、多賀典彬。
出演
立花喜久雄(花井東一郎)吉沢亮、大垣俊介(花井半弥)横浜流星、福田春江高畑充希、大垣幸子寺島しのぶ、彰子森七菜、竹野三浦貴大、藤駒見上愛、少年・喜久雄黒川想矢、少年・俊介越山敬達、立花権五郎永瀬正敏、梅木嶋田久作、立花マツ宮澤エマ、吾妻千五郎中村鴈治郎、小野川万菊田中泯、花井半二郎渡辺謙、芹澤興人、瀧内公美。
Kazu Annさま、初めまして。
共感とフォロバ、ありがとうございました🙂
村田千恵子Pと李相日監督と吉沢亮さんが、2019年の大ヒット映画『キングダム』で6年前に接点があったということに、不思議な巡り合わせを感じます。
そして『鬼滅の刃』と『国宝』が、今年同じアニプレックス製作で夏のスクリーンを占拠していることも、運命的な記録的大ヒットだと感じています🫡
共感ありがとうございます。
黒川想矢くんのもう少し幼い姿が、8/3 18:45から、NHK BSで観られますよ。
剣樹抄、時代劇ドラマです。
かわいいので、よろしければご覧ください。
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