「この景色を見せたかったのか…」国宝 Yuhideさんの映画レビュー(感想・評価)
この景色を見せたかったのか…
『国宝』すごかった。
歌舞伎に人生を捧げた二人の青年、喜久雄と俊介の青春と対立、そして美の本質を描き出す壮大な芸道ドラマ。
冒頭、雪景色の中で父を失う少年・喜久雄。その父はヤクザの親分で、少年の人生はこのときからすでに“常識の外側“にあった。
血のつながりはないが、兄弟のように育った俊介とともに、二人は舞台の世界へと身を投じていく。
他の同級生たちが部活や恋愛に明け暮れる中、喜久雄と俊介だけはただひたすらに歌舞伎の世界に生きる。その姿はまさに青春であり、舞台稽古や川辺での語らい、橋の上でのやりとりが胸を打つ。
二人が語る、伝説の役者・万菊の「鷺娘」を見たときのセリフが印象的。
「こんなんもん、ただの化物やで」
「たしかに化物や。せやけど美しい化物やで」
この“美しい化物“という言葉は、物語全体を象徴している。芸の力は、常人には届かぬ狂気すらはらむ。その果てに、舞台の神が降りる。
師である花井半次郎は、俊介に「お前には血がある」、喜久雄に「お前には芸がある」と語る。
そして自らが舞台に立てなくなったとき、代役に選んだのは、血を分けた息子ではなく、芸を選んだ喜久雄。その瞬間から、二人の運命は狂い始めていく。
俊介は「すべて奪い去る気か」と叫びながらも冗談だと言う。喜久雄の才能と人柄を知っているがゆえに、恨みきれない。
喜久雄も苦悩する。上演前に震えながら言います。
「幕上がると思ったら、震えが止まらんねん……お前の“血”がほしい」
その後の舞台で、喜久雄は圧巻の演技を見せるが、俊介はその場を去る。
終盤、俊介は再び舞台に戻り、『曽根崎心中』で共演します。
俊介の脚は壊死し、二人の時間はもう戻らない。喜久雄は心中してもいいと言う――それは“芸”と“血”、二つの道を極めようとした者たちの、痛ましくも美しい結末。
喜久雄は人間国宝に。
「鷺娘」に挑みます。
舞台で雪が舞い散るなか、それは父が亡くなった瞬間、万菊の神々しい演技とも重なる。
この景色を見せるためにこの映画はあった…。圧倒されました…。
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