「鋭い眼光が射る才能、しなやかに手招かれたただならぬ運命」国宝 humさんの映画レビュー(感想・評価)
鋭い眼光が射る才能、しなやかに手招かれたただならぬ運命
血筋と実力が交差する世界で
魂を削り挑み続けること、
その孤高の陰で揺れ惑う思いの数々
舞台の真正面で眩い光を浴びた選ばれし者は、その時はじめてそこに映り込む心模様と変容を受け止めるのかも知れない
儚さや切なさを携えるからこそ美しい雪の舞の尊さのように脚光のなかで昇華される変遷
そこで去来する敬意と感謝が喜久雄の人としての心に湧きあがったのを目撃したとき、それまでの出来事が心を駆け巡る
なかでも喜久雄の迷いに多大なる影響与えることになった万菊との関係だ
それは感動と言う言葉では何か違う、もっと重苦しいもので掴み今もなお余韻をもたらす
俊介に稽古をつけるのをそっと見ていた喜久雄に気付きあえて放った言葉
質素な部屋の寝床に伏す消え入りそうな肉体を晒して伝えようとした姿
でもそれでいいの
それでもやるの
あの言葉に、孤独な道を生きる喜久雄の心情を察した万菊の人生の深さが重なる
そこには先をいく者の厳しさ、ありがたいほどの優しさがこもっているのだ
渡された扇子を受けて舞う喜久雄は悟り、それを感じ確かに継ながれゆく伝統を見届けようやくひとりの人間に戻らんとする万菊
安堵が包むその時、万菊の心の奥に煌びやかな緞帳が下ろされていったのだろう
二人だけに通ずるこの時間の貴重さ
これがなかったなら喜久雄は先の見えない暗闇に潰されていただろう
そして冒頭の長崎の夜の衝撃
そのシーンを除いては考えられない喜久雄の人生のそばで春江の愛情の在り方はとても印象的だった
芸に没頭し秀でた才能が認められていくほどに引き割かれてれていく無情
喜久雄の夢が素質の上に特異な生い立ちによって固く結ばれたものだと知り尽くす彼女ならではの思いの境地が、募る葛藤や孤独を徐々に慈しみにと変えていく
それが、喜久雄への愛を貫く唯一の術でもあったように思うのは喜久雄の舞台を観にきた俊介が、その輝きにいたたまれず席を離れていくのを追いかけるシーンだ
春江は、俊介の気持ちを和らげることがすなわち喜久雄の夢を守ることになる、今それができるのは自分しかないと本能で感じ動く
〝わかっとるよ〟
こらえてきた自分自身をもなだめながら心の奥からこぼれ落ちてきた言葉が繰り返される
あのとき姿をかえていく永く静かな愛をみた気がしたのだ
また、目を奪われるような美しいシーンが点在している今作において、青白い屋上でのいまにも散り果てそうな喜久雄の精神の危うさは怖いほどだった
そこに向き合う彰子の眼差しが悪魔に魂を売った男の限界を物語る
立場を捨てて喜久雄に尽くしてきた彼女が翻る時、そこにのこしたあの強さ、それこそ彼女にしかできない喜久雄への最後のメッセージだったのだろう
「国宝」その神がかった領域のすばらしさ、潜む苦しみの特殊さを、生きながらじりじりと焼かれるようみせた演者の皆さんの精神力、表現を最大限にいかす技術の力に脱帽しながら、やはりどんなときも深く爪痕をつけていくのは、ひとの思いの行き来がそこにみえるからなのだと改めて思った
コメントありがとうございます😊‼️
「原作」を脚本家や監督がどのように料理・改変するのか。これは才能と経験の成すわざでしょうね!
原作に忠実に映画化する人もあればヒントだけ盗用?してまったくの別物を作り上げちゃう監督もいますし。作家は激怒か?笑
「国宝」は映画単体でも秀作ですし、「原作も読みたくなった」「歌舞伎座で本物を観たくなった」と鑑賞者たちに言わせた。これ、ブームになった国宝現象のすごいところですねぇ。
ではまた😆🖐️
humさま
語彙力というか、筆致というか、文学作品のようなレビューを堪能させていただきました🙂
撮影のエキストラとジャパンプレミアに参加しても、私にはこんな“Bookish”なレビューは書けません🤔
春江と俊介が劇場を後にする、大きな見せ場での彼女の想いへの解釈には苦しみ、妄想に近い想像をめぐらせて自分を納得させていました。
人の思いや行動に答えなんてないのかもしれませんが、何かスッキリするものをいただけた気がします。
繊細な表現から、これまでにない様々な感情に触れる体験ができた、忘れられない作品になりましたので、嬉しく読ませていただきました。作品に華を添えるような丁寧なレビュー、ありがとうございました。
こんばんは〜♪
何だかhumさんお久しぶりですね。
humさん節!
やっぱり素敵なレビューでした♡
春江さん、そんな考えだったのか!!
いやいや全然感じられませんでした不甲斐ないorz
流星君お亮さん、凄すぎました!2人共出来る子ってのは知ってたつもりだったけど、その上の上を行ってました!
田中泯さんは恐ろしいレベルでしたね。
知り合いの叔母様が歌舞伎ファンなのですが、本作の影響で、チケットが取れなくなった!と愚痴っていました(°▽°)
ちょっとごめんねって思いましたが、新たなファンが増える事は歌舞伎にとっても良い事だと思いたいです。
とにかくすごい映画でした。
humさん、共感ありがとうございます。
優秀な遺伝子は才能として受け継がれますね。それを生かすも殺すも自分次第。
出自も自分では選べない。
恵まれた環境に身をおいてもやはり自分の努力がものを言う世界。
大変な重圧を背負いながら芸を磨く2人に胸が苦しくなりました。
さらに歌舞伎役者としての演技、芸を時間をかけて作り上げた若い2人の役者に感動しました。
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