「歌舞伎の魅力」国宝 Dickさんの映画レビュー(感想・評価)
歌舞伎の魅力
❶相性:上。
★歌舞伎の魅力
❷時代と舞台
1964年(東京オリンピックは10月開催)新年:長崎⇒1965年:大阪⇒1972年⇒1973年⇒1986年:大阪、京都⇒1989年⇒1995年⇒2014年:東京(喜久雄が人間国宝に選出)。
★私が社会人になったのが1964年。
❸主な登場人物
①立花喜久雄〔芸名:花井東一郎〕(✹吉沢亮、30歳)〔少年時代は黒川想矢、15歳〕:この世ならざる美しい顔を持つ。長崎の任侠の一門の生まれ。15歳の中学生の喜久雄は、父親が組長を務める立花組の正月の宴席の余興として歌舞伎を踊る。それが、客として訪れていた花井半二郎の目にとまる。その夜、突然始まった抗争によって父親が殺される。喜久雄は、背にタトゥーを入れ、仇討ちに挑むが失敗し、長崎を追われる。上方歌舞伎の名門の長で看板役者・花井半二郎は、喜久雄を引き取り、跡取り息子の俊介と共に歌舞伎役者としての修業を積ませる。喜久雄は、世襲の歌舞伎界の中で才能を武器に、稀代の女形として脚光を浴びていき、俊介を差し置いて三代目半次郎を襲名する。しかしその重責とプレッシャーにより、心のバランスを崩してスランプに陥るが、上方歌舞伎の当主・吾妻千五郎の娘・彰子の支えを得て復活する。そして、糖尿病のため両足を切断して義足となった俊介を励まし、一緒に舞台に立つ。最後は人間国宝にまで上り詰める。
②大垣俊介〔芸名:花井半也〕(✹横浜流星、28歳)〔少年時代は越山敬達、15歳〕:上方歌舞伎の名門の御曹司として生まれ、看板役者・花井半二郎を父に持つ。生まれながらに将来を約束され、歌舞伎役者になることが運命づけられてきた。喜久雄の親友・ライバルとして共に切磋琢磨していき、京都の歌舞伎座で共演するチャンスを掴み、喜久雄は花井東一郎、俊介は花井半弥として人気を博す。しかし、俊介には正当な後継者たる自負があり、喜久雄には才能だけでは越えられない血筋の壁があった。交通事故により大怪我を負った半二郎が、代役に選んだのは俊介ではなく喜久雄だったため、二人の仲に亀裂が入る。俊介は春江を連れて、歌舞伎の世界から姿を消し、旅芸人となり放浪するが、春江のサポートを得て立ち直り、舞台に復帰し、人気役者となる。しかし、糖尿病で両足を切断することになる。両足義足となった俊介は、喜久雄の励ましを得て、一緒に舞台に立ち、「日本芸術院賞」を受賞した後、帰らぬ人となる。
③花井半二郎(✹渡辺謙、65歳):上方歌舞伎の名門の当主で看板役者。逸早く喜久雄の女形としての才能を見出し、抗争で父親を亡くした喜久雄を引き取る。息子の俊介同様に歌舞伎役者として育てながら、自身も役者としての地位を確立することを志す。
④福田春江(✹高畑充希、33歳):喜久雄の幼馴染で一緒にタトゥーを入れる。喜久雄を追って上阪し、ミナミのスナックで働きながら喜久雄を支えるが、歌舞伎一筋の喜久雄の為を思い身を引く。後に俊介と結婚して子をもうけ、花井の家を支えていく。
⑤大垣幸子(✹寺島しのぶ、52歳):半二郎の後妻、俊介の実の母親で、上方歌舞伎の名門を支える女房。初めは喜久雄を引き取ることに反発するが、喜久雄の役者としての才能に気づいて育てていく。
⑥彰子(✹森七菜、23歳):歌舞伎役者・吾妻千五郎の娘。スランプとなった喜久雄のことを慕い、結婚し、復活させる。
⑦藤駒(見上愛、24歳):喜久雄が京都の花街で出会う芸妓。まだ無名の喜久雄の役者としての才能を予見する。喜久雄の子を出産する。
⑧竹野(✹三浦貴大、39歳):歌舞伎の興行を手掛ける三友の社員。世襲の歌舞伎に対して、冷ややかな態度をとる。温泉街で妖艶な芝居を見せる俊介と出会い、復帰のチャンスを与える。
⑨梅木(✹嶋田久作、69歳):歌舞伎の興行を手掛ける三友の社長。喜久雄と俊介を若い頃から見込んで、様々な大舞台を用意する。
⑩吾妻千五郎(✹中村鴈治郎、65歳):上方歌舞伎の当主。彰子の父。歌舞伎指導も担当。
⑪小野川万菊(✹田中泯、79歳):当代一の女形であり、人間国宝の歌舞伎役者。若い頃の喜久雄と俊介に出会い、2人の役者人生に大きく関わっていく。
⑫立花権五郎(✹永瀬正敏、58歳):喜久雄の父親で長崎・立花組組長。組同士の抗争によって命を落とす。
⑬立花マツ(宮澤エマ、36歳):長崎・立花組組長の権五郎の後妻。血は繋がらないが、喜久雄をヤクザの世界に巻き込まないように尽力する。
⑭徳次(下川恭平、20歳):立花組の住み込み舎弟。喜久雄とは兄弟のように育てられ、喜久雄が花井半二郎に引き取られた際にも同行して喜久雄をサポートする。
⑮女性カメラマン(✹瀧内公美、35歳):人間国宝に選ばれた喜久雄を取材する。最後に喜久雄と藤駒の娘であることが明かされる。
❹まとめ
①任侠の家に生まれながら、歌舞伎役者として芸の道に人生を捧げ、人間国宝に選ばれるまでになった男の激動の物語。
②歌舞伎の奥深さ、美しさを描く物語は1964年から始まり、70年代、80年代、90年代へと進むが、サクセスストーリーではなく、人物(主人公以外に関連する人物も含む)の努力、成功、歓喜、葛藤、苦悩、挫折、転落、復活、狂気、得るもの、失うもの等々、プラス面とマイナス面とをバランスよく描いている点に説得力がある。
③一番の驚きは、上方歌舞伎の名門の当主で看板役者の二代目半二郎(渡辺謙)が、ピンチヒッターとして、跡取り息子の俊介(横浜流星)ではなく、父がヤクザの喜久雄(吉沢亮)を選んだこと。血筋ではなく才能を選んだのだ。この時点では、三代目半次郎を継ぐのが喜久雄か俊介かはまだ未定であるが、喜久雄が一歩リードしたことは確かである。落胆して家を去る俊介の気持ちがよく分かるが、選ばれて張り切りと戸惑いの両方を持つ喜久雄の気持ちも分かる。そして、苦渋の決断をした半二郎の気持ちも分かる。上手い脚本である。
④本作には、幾つかの名作歌舞伎が登場する。それ等の内容を知っていれば、本作の理解と感動がより深まったのではないかと思われるが、残念ながら門外漢である。
⑤しかし、演じた吉沢亮と横浜流星の踊りには感動した。圧巻・絶品・見事である。大勢のキャラとエピソードが登場するので、中には共感出来ないこともあるが、この2人の熱演を観られただけで十分である。
⑥舞台の魅力も伝わった。
⑦歌舞伎のことは全くの素人である私だが、若干の接点はある。
ⓐ現役時代、銀座の歌舞伎座から徒歩5分の目的地に出張することが数十回あり、要件が早めに終了した時に観た公演が2回あった。
ⓑ名古屋の中日劇場でも歌舞伎公演があり、1回観ている。
★上記3つは30年以上前だが、今では内容は覚えていない。
ⓒ中日劇場では、ジャンルは異なるが、市川猿之助(三代目)の「スーパー歌舞伎」の全作を公演していて、その全部を観た。
★こちらの内容は今でも覚えている。
⑧本作を観て、「秀でた芸術を生み出すには、並外れた努力と、既存の概念に囚われない発想と、既存の価値観に挑戦する決断力等が必要なこと」がよく理解出来た。美しく感動的な芸術の裏には、芸術家の葛藤や、苦悩や、たゆまぬ探求心があるのだ。
★長嶋茂雄や大谷翔平等、超一流のスポーツマンも同様と思う。
⑨原作は上下2巻720ページの長編で、本作も175分の長編だが、近年流行りの前後編に分けて2本にするのではなく、1本にまとめた力量は見事である。
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