「芸に殉じた者の美と孤独」国宝 よしださんの映画レビュー(感想・評価)
芸に殉じた者の美と孤独
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『国宝』は、芸と血、才能と継承の間に引かれた、見えない線の存在を痛切に描いた作品だと感じた。
喜久雄は、歌舞伎という世界に誇りを持ち、いつも真摯に芸と向き合ってきた。時に手段を選ばず、時に自らを犠牲にしてでも、ただひたすらに高みを目指す。その姿は擦り切れそうなほど切なく、彼の人生すべてが、やがて演技の妖艶さとして舞台に滲み出ていくのを感じさせる。
だが、彼がいくらあがいても、最終的に手にしたのは「国宝」という称号だけだった。家を継いだのは俊介であり、死に際に呼ばれたのも俊介だった。
血が選ばれ、芸は孤独の中に置き去りにされた――そう思わせるほどに、喜久雄の歩みは報われなかった。
芸が血を超えるか、という問いに対して、本作は残酷なまでに沈黙している。
芸は確かに美しく、そして妖しいほどに高貴なものである。だが、最期に家や名を残すのはやはり“血”なのだと、この作品は静かに語る。
万菊がすべてを見通していたとすれば、彼は芸の頂を知る者として、喜久雄の末路を予感していたのかもしれない。
それでも、芸に殉じた者だけが到達できる高みを、彼は確かに見た。
そして私たちは、その儚さと美しさに、胸を締め付けられるしかない。
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