「喜久雄の豊かな人生」国宝 Rubysparksさんの映画レビュー(感想・評価)
喜久雄の豊かな人生
小説を読み終えたばかりであの世界観が自分の中に色濃く残るなか鑑賞。開始5分、少年時代の喜久雄と徳次が出てきただけでもう泣いてた。小説では喜久雄をずっと支える徳ちゃんが映画では端折られていて残念だけど、映画は映画ですごい完成度で、3時間があっという間、あちこちのシーンで泣きながら観た。映画はそれだけで素晴らしく完成しているのだけど、私は映画だけではここまで感情移入しなかったかも。例えば喜久雄が大阪に行くことになったいきさつをより詳細に小説で知っていたからこそ、大垣家に着いた時の喜久雄の心情を俳優さんの表情から感じ取り「きくちゃん頑張れ!」と感情移入した。喜久雄が「不束者ですが」と挨拶するシーンも、映画では端折られているが、これは育ての母であるマツが喜久雄を長崎から大阪へと送り出す前に仕込んだ挨拶だと小説で知っていたので、このシーンから、息子を送り出すマツの強く切ない思いを感じとったり。一方、映画じゃなきゃ観られない大好きなシーンもあった。少年時代の喜久雄と俊介が正式な稽古以外の場所でも橋の上で自主的に稽古していて、二人とも本当に踊りが好きなんだなあというのが伝わってきて幸せな気持ちになった。俊介の最後の演目のシーンは小説でも泣いたけど、映画でも同じくらい泣いた。小説の方がリハーサルのところから、描かれているので、よりハラハラしながらそして泣いてしまう。映画の最後の方で「あなたがここに辿り着くためにどれだけの人を犠牲したと…」という台詞があったけれど、犠牲という言葉はちがうんじゃないかなあと思う。喜久雄が芸の道に邁進した孤独な人というふうにとる人もいるかもしれないけれど、小説を読むと、本当はもっと豊かな人間関係があり、彼は決して孤独ではなく、人に恵まれ、本人も人に対して仁義を通したひとだったのだと思う。喜久雄の面倒をずっとみていた徳次の存在(これはほんとに大きい。なんならこの軸でもう一本、映画が撮れるくらい。印象的なシーンがたくさんある)、あと映画には全く出てこないけど、弁天との出会いとその後のつながり、力士との温かな交流、綾乃との葛藤がありながら孫を抱っこする幸せに浴することもできたこと、などなど色濃い人間関係が小説には描かれているので、映画を観て感動した人は、小説を読んだらさらに感動すると思うし、喜久雄への見方がまたちょっと変わるのではないかと思う。オーディブルにもなっていて、歌舞伎役者の尾上菊之助さんが朗読しているので歌舞伎のシーンはホンモノが聴けて贅沢です。(奇しくも尾上菊之助さんのお姉さんが映画では幸子役として重要な役割を演じましたね。)
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