「男の世界。ウ〜ン、マンダム。」国宝 Mr.C.B.2さんの映画レビュー(感想・評価)
男の世界。ウ〜ン、マンダム。
5〜6月は、別の趣味でカメラを持って出かけているので映画館へ行くのが少ないのだが、今月はやっと劇場鑑賞2本目。
カミさんが珍しくこの映画観たいと言うので一緒に「国宝」をTOHOシネマズ上野で。原作未読。
6月17日(火)
平日昼間でもキャパ392の劇場が七分以上の入りで年齢層高め。横並びの列に年配の夫婦が予告が終わる開映ギリで係員に案内されて来た。映画館慣れ?していないのか、しばらくおしゃべりがうるさい。映画館に普段来ない客層が足を運んでくれるのは嬉しいがこういうのはちょっと困る。
齢70を過ぎたが、恥ずかしながら歌舞伎座には行った事がない。3階席でも良いから一度行った方が良いと昔言われた事があったのだが。そういう点では、ある意味歌舞伎の世界は新鮮であった。
上方歌舞伎役者の花井半二郎(渡辺謙)は、招かれた長崎・立花組組長立花権五郎(永瀬正敏)正月の宴の余興で「関の扉」を舞う権五郎の息子喜久雄を観る。その才能に眼を見張るが、二人の眼の前で殴り込んで来た他の組の者に権五郎は射殺されてしまう。
喜久雄を引き取った半二郎は、喜久雄を同い年の自分の息子俊介と一緒に芸を磨かせ、歌舞伎役者の女形として仕込んで行く。
半二郎と俊介(越山敬達)が舞う「連獅子」を舞台袖から観る喜久雄(黒川想矢)。
二人が成人した後、交通事故で舞台に立てなくなった半二郎は、自分の代役を息子の俊介(横浜流星)ではなく喜久雄(吉沢亮)を指名する。緊張で震えが止まらず化粧が出来ない喜久雄に化粧を施す俊介。
父の代役で「曽根崎心中」の舞台を見事に務め上げる喜久雄の才能にショックを受けた俊介は姿を消す。それに気づき俊介と行動を共にする春江(高畑充希)。
「曽根崎心中」のお初徳兵衛の道行きとリンクして描かれる春江と俊介。
とうとう喜久雄は半二郎を襲名する事になるが、襲名披露の舞台で先代半二郎は糖尿病のために倒れ亡くなってしまう。
いくら才能があっても血筋がない喜久雄は大旦那が亡くなれば歌舞伎の世界ではセリフもないような役しか貰えない。
そこへ俊介が花井半弥として歌舞伎界に戻って来て脚光を浴びる。喜久雄は背中の刺青や隠し子のスキャンダルで奈落に落ちるように姿を消すのだが…。
「関の扉」「二人道成寺」「曽根崎心中」「鷺娘」といった演目が複数回演じられる。演者を替え、或いは替えずに。(親子で舞う「連獅子」は一度のみ)
この構成は良かったと思う。吉沢亮は「曽根崎心中」でお初も徳兵衛も演じる。
「鷺娘」では田中泯と吉沢亮の比較もある。ソフイア・エル・ファニのカメラも素晴らしかった。
「ぼくのお日さま」のタクヤ越山敬達が、若き日の俊介を、「怪物」の黒川想矢が若き日の喜久雄を演じている。彼らも吉沢亮みたいにどんどん吸収して育って行くのだろうな。
結局、歌舞伎界と言うのは男の血筋の世界と言う事か。吉沢亮、横浜流星、田中泯、渡辺謙の演技が素晴らしいのは言うまでもない。女優陣の演技も素晴らしいのだが、女性の側の描き方が足りない。
母(宮澤エマ)のその後は。見上愛はどうなったのか。何故、春江は喜久雄と一緒に刺青を入れたのか(若き日の高畑充希(春江)役の娘も良かった)、恋人喜久雄を捨て俊介を選んだのか。彰子(森七菜)はあの後どうなったのか。唯一、その後が描かれたのはカメラマンとして登場した瀧内公美くらいだ。(これがまた良いのだな)
男性側も充分ではない部分もある。人間国宝の万菊は何故あんな安宿に住んでいるのか。それでいて喜久雄の事を何で知ったのか。俊介が亡くなった後、喜久雄はどうして人間国宝になるまでになったのか。
人間国宝となる男の50年以上の人生を描くのには2時間55分でも短かったのかも知れないが、もう少し編集に加減と工夫があっても良かったのではないか。
映画は、省略の芸術でもあるのだ。
おまけ
母は原爆症で死んだと言及があったらしい(長崎だから?)。聞き逃した。
思い出したこと一つあります!客層について。昔、七之助とかその父親(当時の勘九郎)が出た映画「真夜中の弥次さん喜多さん」に行ったとき、年配のご夫妻とかが割といらしてはびっくりしました。監督とか多分脚本も宮藤官九郎ですよ!でも歌舞伎役者が出る映画だと、行って見ようかなあという一定人数の方がいるんだなあと思いました。「国宝」でいらしてる年配の方はテーマが歌舞伎だからでしょうし、若いお客さんは主役の二人が目当てなんでしょうね。だからいろんな世代・年齢を呼び寄せた、という意味で大成功!
Mr.C.B.2さん、こんばんは!コメントありがとうございます。芸事に詳しいなんてとんでもない!歌舞伎に造詣が深く渋い論文も書き、大向こうでもある若い友人がいて、そんな若い人がもっと増えるといいなあ、と思っただけです。その人の様に、一幕見や三階席で、初日&中日&千秋楽に行くなんてことはできません、ミーハーなので。○○○を見たいから行くのだ!程度です
コメントありがとうございます。
悩みましたが点数下げました。人によって違うと思いますが、私の場合は、4.5と5.0の間には点数以上の大きな差があって。
理屈を超えて感情が動くのを感じなかった。
それを考えると5.0ではないな、と。
私も歌舞伎や梨園の実情を全く知らなかった為、本作は集中して興味深く観る事が出来た邦画でした。中でも人間国宝小野川万の生き様には衝撃を受けました。人生そのものを歌舞伎に賭け歳を取る毎にそれなりの舞の表現に拘り精進を続け、名跡は無いがこの様な役者が実在していたと想像が膨らみロマンを感じています。芸の継承は血筋がモノを言う事、そして映像的にも相対的な歌舞伎を知ることが出来て勉強になりました。
共感ありがとうございます。
喜久雄の母は原爆症で亡くなったとさらりと触れてましたが、この辺を深く描いてたら手がつけられない感じになってたと思います。春江の背中にびっくりする俊ぼんとかも。
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