「アイデンティティの発露を見る紛れもない傑作」国宝 じじいさんの映画レビュー(感想・評価)
アイデンティティの発露を見る紛れもない傑作
序盤、タルい映画かなぁと見ていたが、高畑充希と横浜流星の駆け落ちに「うん?」となる。原作は読んでいないが、映画シナリオ的にはさすがに無理があるかなと思ったが、横浜(家元)=日本と置き換えると俄然面白くなる。
実情はどうかはしらないが、昨今SNSではクルド人などの問題もあり、日本人による日本の存在が問われている。
外様に名前を奪われた横浜は紆余曲折を経て帰っては来るが、壊死により片足を失い、最終的には死んでしまう(明確に描写はされない)。
で、吉沢亮。
彼が襲名する事が、日本の凋落といえば言い過ぎかもしれないが、失われていく様とリンクしていく。途中、お互い出たり戻ったり仲直りもするが、結果的には日本の血を家元から排除する。それでいて最後、カメラマンの娘から自身のある種の否定に対して見つめることしかできない。なぜか?田中泯からも言及があったように嫌々ではあるが、逃げることも出来ず、自ら悪魔に魂を売った事実は否定も肯定もできないから。歴史の中でドサクサに紛れながら、意思を持って日本を侵食していった何か。それを描く李相日。言わずもがなだが、彼のルーツは在日である。彼らが日本に血として入っていく歴史を描いている映画なんだと気付かされたとき、この映画が持つ意味の重さを感じることができる。
大手配給で観客を呼べる若手の俳優を使いながら、シネコンでちゃんと集客した上で、自身のアイデンティティを描くというのはなかなかできるものじゃない。それを見事にやってのけた監督に脱帽。
そういえば、ファーストカットでも首筋に色を塗るという暗示的なスタートになっていたようにも思う。
話変わって、映画にでてくる女性たちは血というものを大事にしているように感じる。唯一吉沢側になびいた森七菜ですらも「もう止めよう」のセリフ以降全く出てこなくなる。恨みつらみを語った前述のカメラマンを始め、監督は女性に対してどのような想いがあるのか是非聞いてみたい。
これらを3時間ちゃんと見せてくれて最後国宝という文字が縦字で出るが、縦に線を引いて半分に割ったとき変な異物(玉の中の、)のせいで綺麗なシンメトリーにならないのかぁとか思ってみたり。
久しぶりに良い映画を観た充実感はあるものの、自分に歌舞伎の素養がないのが残念。曽根崎心中くらいはなんとなくわかるが、役者の演技の上手い下手が観ていてわからなかった。もう少し勉強してからもう一度見れば、もう少し深みにはまれるかもしれない。
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