劇場公開日 2025年6月6日

「濁流に飲まれたかのような気持ちで映画館を後にした。」国宝 AZUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0濁流に飲まれたかのような気持ちで映画館を後にした。

2025年6月14日
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鑑賞方法:映画館

歌舞伎に疎い私でも、別の仕事と並行して、1年半でここまで歌舞伎役者を見事に演じ切った喜久雄演じる吉沢亮と、俊介演じる横浜流星が尋常ではない努力をされたのは誰が見ても感じ取れる。
型は違えど、きっとこの2人も演じることに取り憑かれた人たちなんだろう。彼ら2人がいたから、この作品がここまでの完成度と説得力がある作品になったことは間違いない。

そして彼らの幼少期を演じたのが、新人アカデミー賞を受賞した『怪物』の黒川想也くんと、『ぼくのお日さま』の越山敬達くんという、これまた胸熱な2人なもんだから、誇張無しに喜久雄と俊介の幼少期からずーーーっと隙がなく素晴らしい。
黒川くんの女型なんて、あの歳でなんであの色気を出せるのか、昔話で人間を化かす妖怪ってこんな感じなんだろうなとさえ思えた。
なのに練習シーンで見せた、上半身のあの筋肉質で引き締まった男らしい身体に驚く。彼の日本アカデミー賞でのスピーチでも感動したけど、今後がとても楽しみな役者さんだ。

さらには田中泯さん演じる万菊。滲み出る『人間国宝』の凄みと気品で、田中泯さん自身は歌舞伎役者では無いのに、もう何十年も歌舞伎の世界に身を投じていた人物にしか見えなかった。招く手の所作まで、細部に至る全てが美しかった。

そう、この作品は3時間ずっと美しいのだ。

それは李監督がいつも作品で見せてくれる、人間の美しさなんだろう。もちろん吉沢亮と横浜流星という外見の美しさもあるけれど、単純に外見の美しさというわけではなく、醜く足掻く姿も美しく、汗と涙でぐちゃぐちゃな姿も美しく、そういう壮絶な人生が放つ、常人では放てない美しさが始終作品から放たれていた。

喜久雄の人生を3時間で描くため、若干物足りないところもあったし、あのキャラはその後どうなったの?とか、ここはもう少し丁寧に見せて欲しかったなーという箇所も無かったわけではないけれど、これでもだいぶカットしたんだろうなと思う。
演目で彼らの心情や想いを語らせる、生き方をダブらせるという手法は、歌舞伎の演目を知っていないと少し難しい。

私は『曽根崎心中』しかあらすじがわからなかったので、鑑賞後に他の演目を調べたところ、思わず「そういうことかー」と声が出た。これを知った上でもう一度あの歌舞伎のシーンが見たい。

極道一家の息子に生まれ、歌舞伎の世界に入る喜久雄と、歌舞伎一家のサラブレッドの俊介。
芸をいくら磨いても、血縁という強固な絆とお守りには勝てないと思う喜久雄と、その血によって苦しむ俊介。2人の立場の違う無いものねだりの若者が、芸を極めるために、もがき苦しみ、執着し、追い求める様の熱料は凄まじく、芸を極める以外の全てを捨てた者が辿り着く先が『国宝』なのかと思うと、畏怖感に震えた。

実際歌舞伎の世界で生きている人たちから見たら、この作品はどう映るんだろう。実際の人間国宝の方々からの感想を聞きたくなった。

AZU
iwaozさんのコメント
2025年7月20日

「覇王別姫」、「長崎ぶらぶら節」
と通じる美しさと恐ろしさ、
狂気がありましたね。
幸せな気持ちにはなれないけど
この映画の中で見た光景は
一生、忘れられないものに
なりそうです。感謝。 m(_ _)m

iwaoz
iwaozさんのコメント
2025年7月20日

黒川君は素晴らしかったですね!
同感です!^ ^
ストーリー全体の基部に
曽根崎心中が組み込まれており
芸に生き、芸とともに心中する
中で、一瞬だけ見えた光が
とてつもなく美しかったです。

iwaoz
AZUさんのコメント
2025年7月15日

きりんさん
ありがとうございます!
インタビュー見させていただきましたー!
きっと誰よりも自分ごとで見られる現役歌舞伎役者の方の感想はとてと興味深かったです!

AZU
きりんさんのコメント
2025年7月13日

AZUさんこんばんは

市川海老蔵が本作について語っています。現代の歌舞伎役者が若い感性で喜久雄と俊介を理解する、とても良いインタビューでしたよ。
YouTubeでどうぞ。

きりん
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