劇場公開日 2025年6月6日

「舞台の演目だけなら星5つ」国宝 コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0舞台の演目だけなら星5つ

2025年6月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

驚く

1人間国宝にまでなった歌舞伎役者の半生を描く。

2任侠だった父の死後、遺児、吉澤亮は父と興行上の縁があった大阪歌舞伎の名跡、渡辺のもと歌舞伎の世界に入る。同世代であった渡辺の息子、横浜流星とともに厳しい修業をしながら二人は女形として頭角を現す。そうした中、渡辺が事故に遭い、代役が立つこととなった。本来なら血筋のある横浜となるところ、芸の力やなりの美しさで吉澤が選ばれた。そして・・・。

3 本作は、一般社会と異なる歌舞伎の特異な事柄の中でドラマが展開していく。一つ目 は、歌舞伎の閉鎖的な世襲制度。親から子に芸や名跡が引き継がれる。吉澤は流れに棹さしハレーションを起こす。二つ目は歌舞伎役者を巡る女性関係。10代からお茶屋に通い、女遊びは芸の肥やしと割り切る。そして隠し子。三つ目は歌舞伎の源流にある蔑まされる立場。劇場では役者の看板が掲げられ誉めそやされるが、元を辿ればどさ回りで糊口をしのぐ。劇中、吉澤が歌舞伎から一時期離れ、女性とともに車で地方を巡る旅は、泥水を啜るような現代の道行き、河原乞食の姿であった。四つ目は女形の存在。男社会の歌舞伎で女形は、なりや仕種、声音で女に化ける。老骨の万菊は化物と思われながら手と目線の演技には女が宿った。女形の芸に対する不作法な客の反応に吉澤の心が荒ぶ。

4 長尺な映画であるがドラマの合間に挿入される吉澤と横浜の舞台の演目や楽屋で化粧する場面が素晴らしく、最後まで引き込まれた。音曲や囃子の臨場感や演者の完成度が高く、演目の神髄に魅了された。特に横浜が女形を演じた曽根崎心中は鬼気迫るものがあり、ラストの鷺娘の吉澤は神業であった。鷺娘では、雪の中に倒れた吉澤の目にはあの日の父と同じ景色が写り、心で対話した。一方、ドラマではシレッと省略されてしまったところがあるのは残念。親の仇討ちで襲撃した後始末や舞台の代役を決めるときの渡辺の煩悶、女形の頂点になった万菊、田中が成れの果てになるまで。これらはどうだったんだろうか?

5 主人公以外では、家を守ろうとする寺島の存在感は渡辺以上に大きく、横浜と吉澤を支えた女性達の一途さに感心し、二人の子役のキャスティングに拍手した。

コショワイ
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