「血筋と才能、挫折と再起、友情と嫉妬の物語」国宝 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
血筋と才能、挫折と再起、友情と嫉妬の物語
「世襲か?実力か?」というテーマには、特に目新しさを感じないが、「芸」と「血」によって、それぞれに挫折を味わう2人の男の物語が丹念に描かれていて、見応えがある。
度々挿入される歌舞伎のシーンも圧巻で、吉沢亮と横浜流星の歌舞伎役者ぶりには目を奪われるし、特に、女形としての発声や台詞回しは見事だと思えてならない。
当初は、極道のせがれを演じる吉沢亮と、当主の跡取り息子を演じる横浜流星とでは、配役が逆の方が良かったのではないかと感じたが、悪魔と契約し、芸者との間に隠し子を設け、役を得るために実力者の娘をたぶらかし、挙げ句の果てに歌舞伎界から追放される主人公は、吉沢亮が醸し出すダークなイメージに合っていると思えるようになった。
ただし、共感を覚えるのは横浜流星か演じる御曹司の方で、父の代役に指名された兄弟弟子を妬むどころか、開演前に緊張する彼を励まし、自分の才能のなさを自覚して歌舞伎の世界から逃げ出すものの、地方のドサ回りで地道に芸を磨き続けた生き様を見ると、思わず応援したくなってしまった。
さらに、彼が、糖尿病で片足を失っても、執念で「曽根崎心中」の舞台に立つシーンは、2人の男の因縁と友情が帰結するクライマックスになっており、確かに、吉沢亮の主役としての存在感は素晴らしいものの、美味しいところを持っていったのは、横浜流星の方だと思えてならない。
吉沢亮が演じる喜久雄が、「国宝」となって美しい「景色」を見るラストは感動的ではあるのだが、もし、横浜流星演じる俊介が早逝しなかったら、喜久雄は「国宝」になれたのだろうかという疑問が残るし、喜久雄が見ることができた「景色」を、俊介にも見てもらいたかったと思ってしまうのである。
その点、喜久雄が「国宝」になれたのは、血筋がないことによって挫折を味わったり、親友の俊介を失ったりといった人生経験が、芸の肥やしとなったからに違いないのだが、そこのところは、もう少し分かりやすく描いてもらいたかったとも思う。
さらに言えば、森七菜が演じる喜久雄の恋人が、喜久雄の歌舞伎界への復帰と共に姿を消してしまったことには違和感を感じるし、高畑充希が演じる春江を巡る喜久雄と俊介の三角関係が、まったくと言っていいほど描かれなかったことにも、物足りなさを感じざるを得ない。
ただし、長尺の割には、ほとんど無駄に感じられる描写が無かっただけに、そうした場面を追加したら、上映時間が優に4時間を超えてしまうのだろうが・・・
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