「娘が悪魔と交わした契約は、彼の人生を弄んだのだろうか」国宝 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
娘が悪魔と交わした契約は、彼の人生を弄んだのだろうか
2025.6.6 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(175分、G)
原作は吉田修一の同名小説
歌舞伎の女形として才覚を認められた二人の青年を描いたヒューマンドラマ
監督は李相日
脚本は奥寺佐渡子
物語は、1964年の長崎にて、立花組の宴会に呼ばれる歌舞伎役者の半次郎(渡辺謙)が描かれて始まる
組長・達雄(永瀬正敏)の息子・喜久雄(黒川想矢、成人期:吉沢亮)は、彼の前で「積恋雲関扉」を披露する
半次郎は彼の才覚に声を失うものの、その演目が終わるや否や、別の組の刺客がその宴席にカチコミをかけてきた
それによって達雄は殺されてしまう
半次郎は喜久雄を部屋子にして、自分の元で育てることになった
半次郎には一人息子の俊介(越山敬達、成人期:横浜流星)がいて、当初は喜久雄の存在を疎ましく思っていた
だが、ともに稽古に励む中で友情が芽生え、いつしか唯一無二の親友となっていく
半次郎は二人を女形として組ませてデビューさせることを決め、「二人藤娘」を披露することになった
興業主の三友の社長・梅木(嶋田久作)は二人の才能を認めるものの、社員の竹野(三浦貴大)は血縁社会における部屋子の存在を訝しんでいた
物語は、喜久雄と俊介が一大ムーブメントを起こす様子が描かれるものの、半次郎の交通事故によって、様相が一変してしまう様子が描かれていく
半次郎は代役に喜久雄を抜擢し、その成功によって俊介は家を出て行ってしまう
俊介の不在によって、喜久雄が次代の半次郎になったが、俊介の母・幸子(寺島しのぶ)の胸中は穏やかではなかった
その思惑とは裏腹に喜久雄はスターへの道を駆け上がっていくものの、半次郎の死が全てを変えてしまう
彼の死によって再び注目を浴びることになった俊介は表舞台に戻り、同時に喜久雄の出自がリークされて転落してしまうのである
映画は、上下巻の原作を3時間にまとめたもので、歌舞伎のシーンを含めて見応えのあるシーンが多かった
だが、メインが喜久雄と俊介の友情になっていて、恋愛関連はかなりざっくりとしたものになっている
また、国宝の女形として登場する万菊(田中泯)との邂逅もピンポイントに思えて、死の間際に俊介を呼び戻した経緯は謎だったりする
彼がいなければ喜久雄は成長できなかったと思うが、こういった人間関係はかなりざっくりとしたダイジェスト感があるので、歌舞伎のシーンの没入感には遠く及ばなかったように思えた
映画にはいくつかの演目が登場するが、ビジュアルで感じられるので事前知識はいらないように思える
キーとなるのは「曽根崎心中」くらいなので、この演目に関してはあらすじくらいは知っていた方が良いかもしれない
テーマとしては、血縁と才能を取り上げていて、血縁が紡いだもの(病気)と、才能が繋げたもの(文化的遺伝子)が対比となっている
だが、人生において、歌舞伎で生きていく上では血縁の方が大事で、それはその家にストーリーがあるからだと思う
贔屓さんはその家の物語をリアルタイムに観て応援してきた世代なので、才能よりも優先するものがある
そう言った意味において、歌舞伎という世界は特殊な世界なのだが、喜久雄が部屋子から成り上がり、彼の一家の物語が生まれていくのならば、それはいずれは認められていくものなのだろうと思った
いずれにせよ、歌舞伎に詳しい人が見たら本職と比較して粗が見えるのだと思うが、そこまで馴染みのない人が見る分には問題ないと思う
個人的にはざっくりとしか知らなくても付いていけると思ったので、歌舞伎のことは知らないから避けようとするのは勿体無いと思う
個人的には、二人が最後に演じた「曽根崎心中」のシーンで終わっても良かったと思ったので、最後の綾乃(瀧内公美)との再会と赦しは不要だったように思えた
彼女をキーキャラとして登場させている意味はわかるので、それならば「彼女が悪魔と交わした取引」というものを明言しても良さそうに思う
おそらくは、喜久雄の契約以上に綾乃の契約にも重さがあったと思うので、それが描かれなかったのは残念だなあと思った
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