「将棋の闇の世界におけるサスペンス」盤上の向日葵 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
将棋の闇の世界におけるサスペンス
2018本屋大賞にもノミネートされた、柚木裕子の同名小説の映画化。若き天才棋士・藤井聡太の出現によって、俄かに注目を浴びるようになった当時の将棋界。その頃の最前線の話題をモチーフに、見事なサスペンスをコラボした重厚な作品として記憶している。柚木作品の映画化と言えば『孤老の血』の様な血生臭いバイオレンス・サスペンスを思い出すが、本作は、児童虐待から人間の根源におけるモラルに関わる生き方までを取りあげた、ヒューマンタッチなサスペンス・ドラマに仕上げている。
自分は、将棋は指さないので、対局の有利不利はあまりよくわからないが、その対局にかける緊迫感と気迫は十分に伝わる作品に仕上がっていたと思う。ただし、本物の対局は、一手を打つだけでも何分も時間を要して、究極の頭脳戦を繰り広げられているが、それに比べて、次から次へと素早く駒を指していく様子は、将棋の対局のリアリティーさに欠いていたようにも感じた。
物語の前半では、主人公である東大出身の若き天才棋士・上条桂介が、父親からの酷い虐待を受けていた、辛い幼少期が映し出されていく。そんな暮らしの中で、桂介の唯一の救いとなった将棋の魅力を伝え、圭介に温かく救いの手を差し伸べた元校長の唐沢の優しさ。その反対に、桂介にまとわりつく酒浸りの父親、そして、博打将棋で生計を立てる真剣士・東明の病んだ生き方。それにも増して、佳介の中に潜んでいた、深い罪の十字架が刻まれた禁断の血と心の闇が、最後まで桂介を苦しめていく。
ある殺人事件に関わる様々な布石が、前半から散りばめられている中で、その事件の真相を追う2人の刑事。そして、その刑事が真相に迫ったときに明らかになった、桂介の非情なる運命。桂介が常々、夢見ていた一面の満開の向日葵畑、そこに見えた一人の女性、その向日葵畑はいったいどこにあり、桂介どこに向かおうとしていたのか・・・。最後に辿り着いた衝撃のラストに、胸が詰まる。
エンドロールと劇中歌に流れる、サザン・オール・スターズの『暮れゆく街のふたり』は、物語にピッタリな哀愁が漂うテーマ曲のチョイスだった。
切ない過去を引きずった天才棋士・上条桂介には、坂口健太郎が演じ、多分だが、アカデミー賞の男優賞にはノミネートされるだろうと思う熱演ぶりだった。それを支えたのは、東明役の渡辺謙。彼の演技は、どんな役でも存在感があり、今回も汚れ役によって坂口を大いに引き立てていたと感じた。高圧的な刑事役には佐々木蔵之介、若き刑事には高杉真宙、他にも土屋太鳳、小日向文世、土屋多恵、、そして柄本明も妖怪じみた真剣士を演じていた。
共感ありがとうございます。
役者さんは各々熱演してたと思いますが、もっとスカッとしたかったです。原作本のラストだけ見たんですが、映画の方が良かったと思いました。
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