「向日葵の向こうに誓った、、生き抜くという決意」盤上の向日葵 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
向日葵の向こうに誓った、、生き抜くという決意
2025.10.31 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(122分、G)
原作は柚月裕子の同名小説
殺人の嫌疑がかけられた天才棋士の半生を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は熊澤尚人
物語は、1992年に新人戦トーナメントを制したプロ棋士の上条桂介(坂口健太郎、幼少期:小野桜介)が壬生芳樹(尾上右近、幼少期:井上涼太)との竜昇戦に挑む様子が描かれて始まる
桂介は奨励会に入ることなくプロになった異質の棋士で、その過去は壮絶なものだった
一方その頃、山梨の山中にて身元不明の遺体が発見され、そこには高価な将棋の駒が一緒に埋葬されていた
その駒は世界に7つしかなく、警察はその行方を追っていく
そんな中、警察は上条桂介がその駒を譲り受けたという情報を得ることになった
刑事の石破(佐々木蔵之介)と佐野(高杉真宙)が捜査を続ける中、かつて桂介を気にかけていた唐沢夫妻(小日向文世&木村多江)の存在にたどり着く
そして、桂介の知られざる壮絶な人生を紐解いていくことになったのである
映画は、冒頭の桂介が過去を回想するという流れになっていて、そこに刑事2人の捜査が重なっていく
それによって、桂介の半生が提示され、彼がどのようにして棋士の道を目指し、嫌疑をかけられることになったのかが示されていく
桂介は父・庸介(音尾琢真)と母・春子(ジエン・マンシュー)によって育てられたが、母は桂介が幼い頃に自殺をしていた
その後、父は一人手で桂介を育てることになったが、ギャンブルによる借金と酒に溺れるようになり、次第に生活は困窮していった
小学校の頃には新聞配達で生計を助ける必要があり、配達先の唐沢家の前に捨ててあった将棋の雑誌を拝借していた
それから桂介は将棋にのめり込むようになるのだが、その理由というものが後半に明かされる
その後、桂介は良い大学に入れば金を稼げると言って父を説得し上京していた
そこでは将棋部に属することなかったが、ある夜のこと、路地裏にあった将棋道場にて、かつてはプロ棋士と持て囃されていた東明(渡辺謙)と出会う事になった
彼は真剣師として、賭け将棋を行なっていたが、今は借金まみれで、ヤバい筋のヤバい仕事をさせられていた
東明は彼の打ち筋を見て才能を感じ、賭け将棋の世界へと足を踏み込ませる
だが、わずかな賭け金でもまともに打つことができず、彼は東明の最期の真剣に付き合わされる事になったのである
映画は、桂介の竜昇戦に向かうまでの回想と同時並行で彼の過去を紐解く流れになっている
回想の前半は少年時代の唐沢夫婦との出会いと別れを描き、菊水月の駒の行方を追っていく
中盤では東明との出会いが描かれ、彼が賭け将棋の世界を体感していく様子を描いている
それらが重なったとき、なぜ東明は森の中で死に、別の場所で桂介の父の死体が見つかったのかが繋がっていく
ミステリーとしては最後まで真相がわからない作りになっているが、この一連の事件で桂介を立件するのはかなり難しいように思う
殺人教唆に関しても逃げようと思えば逃げ切れるし、奈津子(土屋太鳳)の立ち話だけでは正確な依頼とは言えないだろう
このあたりは東明自身が彼に嫌疑がかからないように阿吽の呼吸のような取引をしているので、桂介としては「育ての親」を殺さなければならなかった後悔の方が先立つと思う
それでも東明の残した「何があっても生き抜け」という言葉を借りるなら、投了となるまで強かに戦うのではないか、と思った
いずれにせよ、将棋映画としては「鬼殺し」という技のようなものが登場するだけで、それは東明と桂介を結びつけるものでしかない
とは言え、雑誌に載っている棋譜を再現しただけで、憧れの棋士だったで終わる話だと思う
東明の現場に駒があったことも、彼に奪われたという事実はあるので、それを貫いてしまえば証拠となるものは存在しないように思える
いざ逮捕まで漕ぎ着けたが、その後の裁判で有罪まで持っていけるのかは微妙だが、むしろその法廷で彼の頭脳がどれだけ検察を上回るのかを見てみたい気がする
最後の警察(竜昇戦)に向かう彼には迷いがないので、文字通り「生き抜く決意」を固めたのではないだろうか
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