正体のレビュー・感想・評価
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殺伐とした時代にも光輝く
つい先日、映画「正体」を鑑賞し終えた私は昨年の夏のある出来事を思い出していた。
その日、通勤のため最寄駅の改札口に向かう私の目の前を1人の青年が通り過ぎた。彼はポケットからスマホを取り出した拍子に数枚のカードを足元に落とした。周囲の人達は「あっ」と気がついたが当の本人はイヤホンをしていてそれに気が付かない。しかも急いでいるのか誰も声すらかけない。私も皆と同様に先を急いでいたが「仕方がないなあ」と面倒臭さもさほど隠さず彼の腕をチョンと突いて散らばったカードを指差し落とした事を知らせた。すると彼は非常に驚いた表情で「どうもありがとうございます」と丁寧に礼を述べ、その刺青だらけの両腕でカードを拾い始めた。その間たった30秒ほどの出来事である。
映画「正体」では賢く心優しい主人公が自分の冤罪を晴らすため決死の脱獄を図る。逃亡先で出会った人々はその純粋な心を持つ若き逃亡犯の無実を信じ彼を救おうと立ち上がっていく。そしてラストシーン、主人公は無罪判決を掴み取り拍手喝采に包まれる。
前情報無し原作も未読の私には正直まさかの展開だった。だって今の世の中バッドエンド、後味の悪い物語が主流でしょ?胸くそが悪いくらいがちょうどいいんじゃない?
そう、これは荒んだ私の思い込みである。
だからそんな私にとって夏の駅での出来事もまさかの展開だったのだ。まさかお礼を言われるとは。しかもあんなに丁寧に。別に彼が刺青だらけだったからでは無い。この時代、誰かに親切心見せたところで素っ気ない反応が普通だろうし、そもそも他人に期待してはいけない。けれどもその日私は見も知らぬ青年の素直な反応にちょっぴり生きる活力をもらった。これは劇中で何度も聞いた「信じる」と言う台詞に感覚が近いのかもしれない。もちろん日常のほっこり話と冤罪がテーマの物語が同じだと言っているわけではない。ただ、殺伐とした時代に「心優しい無実の人間が救われる」物語が映画となり世に送り出され多くの人の目に触れた。私にはそんな事実が光輝いて見えた。この映画からはあの夏の日と同じく生きる活力をもらった様な気がした。って、あれ?やっぱり私、荒み過ぎか?
でも、心底そう思ったのもまた事実である。
原作をブラッシュアップした映像化作品の成功例
横浜流星主演の原作付き作品ということで気合が入り、公開日を聞いた時期に染井為人の原作を読んだ上で観に行った。
(原作の内容と結末にも触れる感想になるので、これから原作を読みたい方はご注意ください)
最近キャスティングの上手い邦画が増えてきた気がして何だか嬉しい。特に、実力とビジュアルで鏑木役に横浜流星以上の適任はいないのではないだろうか。ビジュアルというのは、原作の鏑木もくっきりとした二重に通った鼻梁、ネットで写真を見た舞(映画では酒井杏奈)に「わりとイケメンじゃん」と思わせる容貌だからだ。
そんな彼が、背中を丸めたベンゾーからおだやかな佇まいの桜井まで、七変化ならぬ五変化の姿を演じる様は見応えがあった。逃亡中、世を忍んだ生活でほとんど喜怒哀楽をあらわにしなかった彼が、沙耶香(吉岡里帆)の言葉に泣き、井尾(原日出子)と対峙して感情をほとばしらせる姿には胸が詰まった。
他のメインキャストのジャンプこと和也(森本慎太郎)、又貫(山田孝之)、舞や沙耶香に関しても置かれた環境や心情が過不足なく描写されており、彼らの鏑木との出会いが終盤に集約されていく展開を、限られた時間の中で自然に見せていたように思う。
原作からの変更部分も、よい改変が多かった。
一番驚いたのは、鏑木が死ななかったことだ。原作では、介護施設に立て篭もった鏑木は警官に撃たれて死ぬ。死後にかつて彼と出会った人々が集まって、裁判で名誉を回復するというラストだ。冤罪の理不尽さを描こうという意図は伝わってくるが、あまりに救いがない。
また、原作では鏑木を追い詰めるただの敵対者のようだった又貫が、組織の論理と個人的な良心の板挟みになる人物として描かれていたのもよかった。社会的権力を持つ組織の問題を描く時、その中にいる個人を単純に悪魔化してステレオタイプの批判的描写をしても意味がないと常々思う。組織の構造にスポットを当てる必要がある。本作では松重豊がその説明役を担っていた。
終盤に又貫が組織の意向に逆らい再捜査を宣言する場面は、ラストの無罪判決と並んで希望を感じさせるシーンになっていた。
沙耶香は父淳二の痴漢冤罪と闘っている設定だったが、原作では沙耶香と淳二は赤の他人だ。別の時期に鏑木が遭遇した2つのエピソードを映画ではひとつにまとめた形になるが、これはとてもよいアレンジだと思った。
原作の沙耶香は、映画と同じくライターの那須を自宅に住まわせ、彼が鏑木であると察してもなお彼を守るが、その動機が知り合って数ヶ月の那須への好意や恋愛感情以外に見当たらず、犯人隠匿という危険を犯すには弱いような気がしていた。
それが、淳二を父親にして冤罪の理不尽さと向き合っている人物にすることで、彼女の行動の説得力が格段に増した。
この改変、なんと吉岡里帆のアイディアだという。吉岡里帆すごい。
改変「されなくて」ちょっと残念だった部分もあった。
鏑木が現場で逮捕された時の状況はほぼ原作通りの描写なのだが、特殊な状況すぎてちょっともやもやしてしまう。
それなりに分別あるだろう高校3年生が、室内が血の海とわかっても通報せず入っていくのか? 足利(山中崇)は涎垂らして血まみれのまま出ていく感じだったけど、そんな犯人が全く指紋や足跡を残してない、目撃者も全くないなんてあり得るのか? などなど(他にも言いたいが省略)。
警官現着時に現場で鎌持って血まみれになってたけど犯人ではありません、という超レアケースで冤罪の理不尽さを語るのは適切なのか疑問に思った。
原作では鏑木が現場を通りかかった理由など、さらに不自然な説明がなされていて、悪の組織警察が色々と握りつぶしたことになっていて萎えてしまったのだが、その辺の細部を省いて映像の力で押し切ったのはよかった。
また、事件の設定などの惜しい部分を横浜流星の熱演がカバーしていた。原作の鏑木はあまりにただの善人で実在感がなかったのだが、映画で生きた鏑木を感じられたのは彼のおかげだと思う。
原作の残念ポイントを緩和したこと、鏑木や沙耶香に関する効果的な改変で、個人的には非常によい原作映画化作品だった。星の数は、原作由来の不満点を除いて、脚色の妙と俳優陣の素晴らしさで多めに付けた。
原作についてちょっときつめに書いてしまったが、鏑木を狂言回しにしたオムニバス小説としてはさくさく読めて十分面白い作品。冤罪問題を真剣に考えるたたき台としては物足りないが、エンタメとしてはお勧め。
完璧人間すぎないか?
主人公が完璧マンでスーパー良い人すぎて、あんに良い人が可哀想な目にあってたら助けてあげたいじゃん。善意の元気玉で解決!みたいな流れが受付けず
こんな素敵な人じゃないと冤罪から救われないの?そんな世の中ポイズン!と感じてしまった…
うん、いい作品!!
久しぶりに邦画でいい作品に出逢った!という作品だった。
最初は横浜流星(かつらぎ)が、ただの逃亡犯なのだと思い観ていたが、横浜流星の演技でその人となりに引き込まれて、登場するかつらぎに関わる人と同じく彼を信じる気持ちになった。それは、横浜流星の演技の凄さなのだと思う。失礼なことを言うと、彼の演技をうまいと思ったことは今までなかったが、この作品は凄いものを見せられたとすら感じた。周りの共演者の演技も凄いのだが、かつらぎ(横浜流星)を取り巻く人という分類になってしまうほどの演技だった。
しばらく、余韻が残る作品。
是非みてほしい。
「それでもボクはやってない」
ただ純朴な高校生が、人生を狂わすタイミングに招かれた。
ひとりの証言が逃走劇を生み、またひとりの証言が人生を救った。
映画「それでもボクはやってない」が2006年に公開。"冤罪"という重い罪が存在することを世間に知らしめ、認知度を広めた一方で今も尚この世にこの罪は存在している。
2019年には韓国ドラマを日本でリメイクしたドラマ「TWO WEEKS」でも、三浦春馬さん主演で冤罪における逃走劇を繰り広げ、再び"冤罪"への注目、関心度を高めた。
そして今作は圧倒的に横浜流星さんの気迫溢れる演技と、今作の大きな展開の鍵となる吉岡里帆さんの演技にただただ胸を締め付けられ、涙がでました。
(SixTONESに関してはひたすら友達ヅラしてたけど…最初に通報しようとしたのは誰だっけ?…と最後まで許せなかったけれど、、、(笑))
刑事としての使命感を唯一持ち続けていた山田孝之さん演じる刑事の風格もとてもよかった。
【冤罪】
それは、現実に起きていることであり
聞き慣れた言葉ではあるけれど、
過ぎた時間は戻らない。奪われた時間、汚された名前、踏み潰されたものたち、その代償は計り知れない。
○年間を無駄にした
と、文字にするのは簡単だけれど、
…………………。
言葉に詰まるそれらを映画に反映させ、アカデミー賞の受賞にまで繋がった。
藤井直人監督、アッパレです。
改めて、おめでとうございます。
藤井直人監督の代表作は私の中で「余命10年」だったのですが、今作は今後、肩を並べる作品だなと思いました。
現在のネット社会は「同調圧力」が目覚ましい。
それは良い風にもなり悪い風にもなる。
"人を信じること"について改めて考えさせられました。
一人でも多くの方に観てほしい作品です。
今作が世に残り続けると思うと未来は少しは明るいのかなと思えた。
めちゃくちゃヒドい作品
かなり期待して見たんですけど、見てられないなと感じる作品でした…。
プロットも演出もヒド過ぎて、とても退屈してしまいました。原作があると聞いたんですけど、主人公が脱走して、真の犯人を見つける?自分の無罪を主張する?そこに対する原動力みたいなものも、よく描ききれてないなと思いました。原作はどういった作品か分かりませんが…。
内的な描写が少なかった気がします。
すべての職業をバカにしたような映画
えん罪で死刑判決を受けた少年が逃亡しながら真実を探すという映画。
まず、護送中にあっさり脱走に成功させてしまい、なかなか捕まえられない警察。間抜けすぎて笑える。警察はそんなに無能じゃない。
最初に少年が潜んだのは土木作業かなんかの現場。お決まりのパワハラだらけ、行き場のない人ばかりが集まっているという描写、労災の存在を知らない作業員、労災隠しを当たり前にする現場責任者・・・土木建設業をバカにしているのでは。
次に少年はライターになり、編集者から専属契約を打診されるほどに信頼を受けている。ライターの仕事をバカにしているよね。何年もその仕事やっていたのか?と思ったらたぶん数カ月。そんなに簡単じゃないでしょ。編集者だってあんなに怪しい素性の分からないやつをそんなに信頼しない。
吉岡里帆分する編集者は少年を家に泊めて、指名手配中であることに気づくが、警察が踏み込んできた時に逮捕の邪魔をする。そんな馬鹿なことする?浅はかすぎる。で、犯人を隠ぺいし公務を妨害しているのにおとがめなしの様子。何それ?どこの国?
次に少年は介護職に就く。で、若い女性スタッフから「先輩♥」とか言われて信頼されるくらい仕事ができる様子。「あれ?何年も経った後の描写かな」と思ったらそんなことなく数カ月。数カ月でそれだけ仕事ができるようになっており他のスタッフや利用者の信頼も集めているとか。介護職をバカにしているよね。
そんな女子に誘われデートなんかに行っちゃって、あっさり動画に撮られてしまう逃亡犯。そんな不用心なことする???
ネトフリで鑑賞でよかった。映画館でお金を払って見ていたらものすごく後悔するところだった。
亀梨、市原のドラマバージョンの方がいい
と、思う。やはり時間が長い方がはしょらずに細かいセッティングが可能だからか。
いや、やはり最初に見た印象の方が勝つのか。
映画版はキャストが豪華だ。
演技力の高い俳優陣
逃走する中でいろんな人と出会い、そして別れ、目的のために突き進んで行く鏑木。信じてもらえて心を揺さぶられる場面もあれば、凶悪犯の猟奇的な雰囲気も感じられ、横浜流星の演技力の高さに見事に圧倒された。
結末はなんとなく想像はできたが、カット割や俳優陣の演技が非常に素晴らしい作品でした。
錚々たる面々
事前情報なし。
俳優陣が揃いも揃って豪華でした。
横浜流星の鼻が高い(物理的に)。顔がいい。
ネタバレ↓↓↓
山田孝之しっっぶ…。
石原軍団みたいな渋いおじさんになっていくのかな…。
違うなと分かっていながら冤罪にしやがって…!と怒りが湧いてきたけど、
終盤は上に逆らい冤罪の可能性としっかり言って悪者で終わらずよかった。山田孝之好きだから。
あんなガバガバ捜査で犯人、しかも極刑を言い渡されるなんて胸糞。
序盤の緊迫感から、終盤横浜流星への同情に変わる。
警察への苛立ち、だれも自分のことを信じてくれない恐怖はあるけど、
ラストはハッピーエンドで胸糞じゃない映画でした。
正義を信じる、という良い話系でした。
25.3.15 ネトフリ
見知らぬ誰かの言葉よりも
Netflixで鑑賞。
原作は未読。
他者を信じる。容易そうでなかなかに難しい。今の世では特に。真実なんてどうでもいいと云うセリフにゾッとした。
だからこそ余計に、鏑木と彼が出会った人々の交流に希望を見出したくなる。彼の真摯さが他者の心を動かしたからだ。
見知らぬ誰かの言葉を信じるよりも、しっかりと自分の目と耳と心で、目の前の人や物事を見るようにしたいと思った。
良かった!
冤罪って、本当に怖い。
酷い話だと思います…。
今は実際に逃亡してもあそこまで出来るかどうかはともかく、エンターテインメントとして飽きさせずに面白かったと思います。(それもこれも名優尽くしだからでしょう)
それにしても憎いのは世の流れだからと忖度する輩。
一握りの警察上層部のそんな思惑で冤罪って生まれるんですよね、過去の実例に沢山ありましたよね。
最後の鏑木のセリフに、何度目かのトドメの涙がこぼれました。
あんな言葉をすっきりした表情で言う人が犯人なワケないじゃーーーーーーん!!
ちなみに、横浜流星は特にご贔屓俳優じゃなかったけど、今の大河ドラマが面白くて、別の顔を観たいと思って観に行きました。
『ゴゴスマ』が出てきて、ワクワクしちゃったし♪
横浜流星さんが最高すぎる
映画館で観たかったのですが、NETFLIX視聴でした。
こんなに泣ける映画だと思わなかったぁ。
横浜流星さんの役に憑依されたかのような演技、ラストに涙なくしては観れませんでした。
山田孝之さん、吉岡里帆さん、森本慎太郎さんも名演技。悲しくて、刹那い映画でした。
意外と単純なサスペンスかと思いきや
死刑囚が逃亡する話。
タイトルから、
死刑囚の本性や人間性の部分が見えてくる
人間ドラマかと思ってたら
意外とシンプルな冤罪モノでした。
このご時世だと
警察や裁判の闇が描かれるような
冤罪ものは結構あって
驚きが少なかったのが正直なところです。
山田孝之演じる刑事の苦悩が
もっと見えればよかったなあと思いました。
と終了15分前まではそういう感想でしたが、
ラスト急な展開で感動作品になりました。
信じてくれる人がいる、
それだけでこの世を諦めない!
自分の人生捨てたもんじゃないなと思える
いい作品でした。
あと、兎にも角にもキャストが豪華です。
人生ワースト5に入る
途中でジャンプが主人公の利き腕を確認するところ、普通そんなストレートに聞くか?主人公は利き腕を隠すために右利きを装う。そんな必死に正体を隠そうとする人物が、なんで髪で隠れた顔をあんなに簡単にジャンプに確認させたのか。あとその確認中もおしっこちびれちゃうんじゃないかというくらいガタガタ震えながら顔を確認するジャンプ。迫真の演技だが逆に滑稽すぎた。ばれない様にもっと自然に確認しようとするし、その際ももっと平静を装うはず。
そこで俺は見るのをやめた。
すぐわからないの?
まず犯行現場に居合わすのは仕方ないとして、そこで取る行動が考えられない。冷静にはなれないかもしれないが、普通はまず警察か救急に電話するでしょ。
逃げた最初の工事現場では、長髪ではあるが、なんとなくわかるでしょ。次のライターも同居人がなかなか気付かないのもね。介護でも全くというところが。
ニュースでちょいちょいながれてるシーンもあるし、大きく整形してる感じでもないのに。
逃げてる途中での人助けだったりで、味方が増えているのは人柄が良いというのは理解する。
ただ、そもそも警察が何も調べずに、犯人に仕立ててるのがね。無能の集まりか?って思う。
ハードル高すぎた
2024年で評価が高い作品。
日本アカデミー賞にもノミネートされている作品。
侍タイムスリッパーよりもノミネートが多く、物凄く期待して観ました。
残念だったのは予めネタバレを見てしまったので展開が解っている事。
題名が「正体」と言う事で脱獄後に出遭う人に犯人の違う面をそれぞれ見せて総合的に犯人の多面性を見せる映画かな?と思いましたが、犯人は偽名を使って色々な仕事に就きますが、基本的に優しくて真面目で良い人。
確かに横浜流星の演技は上手い。
でも多面性を見せるまでいっていない。
犯人を追う刑事の山田孝之は熱演。
最後に上司の孤独のグルメからの命令にも逆らって冤罪を証明する。
冤罪活動が「殺人犯に見えないから」では活動にならないのでは?殺人犯に見えなくても殺人する人はいると思います。
評価が高かったからハードルが高すぎて、えっこれだけ?って展開。
なんか捻りがないんですよね。
どうしてこんなに評価高いのか解りません。
ヒューマンな感動作
著名人が持病を告白したり壮絶介護などの家庭環境の困難を言いだすのは人気が落ちてきたからだ。人気者ならそんなことは言わない。病や波瀾万丈は同情をかせげるので忘れ去られようとしている芸能人または事務所がどこかに取材を依頼し世間との顔をつなぐわけである。是非ではなく戦略としてそれはそういうものだが、この病と不遇という要素は日本映画において最も多用されるパラメータと言っていい。
主人公は病になるかまたは有り得ない奇禍に陥って可哀想な状況に置かれる。両親はおらず児童養護施設育ちで、横暴な上司がいる底辺な職場環境に置いたり、なんか一般的なものを食べさせたのにこんなおいしいもの食べたことがないとか言わせたり、とにかく「人間的幸せを味わったことのない気配」を叙情的音楽に乗せて観衆の憐憫を煽る。これが釣れること釣れること。謂わば人間的幸せを味わったことのない気配のイケメンを見せておけば日本人がどれだけ釣れるか──の回答がこの映画である。
すなわち正体は同情で釣るテンプレのような構造をもった映画と言っていい。構造はあっけにとられるほど単純でやったと思われたけれどやってないイケメンの犯人が逃走する。逃走中に人望や恋情をあつめて、かれがひとごろしなんてありえないというムーブメントをつくり、捕まえる側の内情は誤認だけどまあいいやという警察権力の専横ということにしておく。全体としてこれで大丈夫ですかと思えるほど簡素で拙い構造だがそこは雰囲気で乗り切りたい。
かれは一介の少年だが、警察から逃亡できるほどの武闘派である。しかしマッチョではない。なにげに誰よりもタフなんだが、そういった矛盾点はヴァイオレットエヴァーガーデン的エクスキューズ=美しい・正しい・心が清い・同情心をそそる・けなげである・やむを得なかった、などによってカバーしていく。
という映画だったので愁嘆がやたら多かった。おそらく愁嘆が定評になっている藤井道人監督が演出していて、最初から最後まで泣かしたさがあらわれまくりという印象だった。ただ藤井道人は濃霧っぽい絵にして雰囲気で乗り切る演出スタイルの監督でうまくはない。うまくないのに第一線で撮りまくっている印象がある。
俳優でいろんなところに出まくっているとゴリ押しって言われて忌避されるのに、監督はゴリ押しって言われないのがしゃくにさわる。業界の事情はしらないがそんなにがめないでいろんな監督に回してほしいと思った。
日本映画を見ているといつも回しすぎだと思う。回さないでサッと次のシーンに移ってほしい。日本映画界に望むことはないし衰退し滅んでほしい。ただ映画をつくるならもう技量はいいから「サッと次のシーンに移る」ということだけやってほしい。
サッと次のシーンに移らないからジトッとしたヌメッとした空気ができる。回すのは根性論・精神論によるものだ。なんか情趣か余韻か魂か神演技か、そういう何かがあると思っているから回すわけで、じっさいは何もない。回すと観衆は退屈するか居心地が悪くなるだけだ。映画を見ていればそんなのわかることだから映画を見たことない監督ほど回す気がするが、日本の映画監督はみんな余計に回す。染之助染太郎といっていい。これは笑いをとる意図ではなくたいがいの日本の映画監督が回した方がいいと思っているということを指摘している。
日本映画の趣味はもうどうしようもない。ただし回さないで「サッと次のシーンに移る」だけでもやってくれれば0コンマ2ポイントくらいは品質の底上げができると思う。
原作改変の劣化と盛り上がりの無さ
原作を改変して劣化したよくある実写版
原作者が鏑木の死を申し訳ないと思っているのに原作は敢えてそうしているのは何故なのか?
そのほうが面白いという判断をしたからではないのか?
勝手にレシピを変えたとても薄味のチャーハンという感じでした。
ただ改変がなくてもそもそも盛り上がりも意外性もあまりなかったので改変とかの問題でもなかったかもしれません。
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