「フィクションでもリアルさは必要」正体 るなさんの映画レビュー(感想・評価)
フィクションでもリアルさは必要
近年現代を舞台にした犯罪ものドラマ制作は難しくなっている。
犯人被害者共に人権に配慮、至る所にある防犯カメラ、逮捕から起訴までの流れ、、等々考慮しなければならない。
まず、物語の中心である警察の描写について。劇中、警察は捜査を怠り、鏑木を犯人に仕立て上げる姿勢が強調されているがこのような描写は、警察組織全体を一面的に捉えており、現実感を欠いていて、結果として物語の信憑性が損なわれ、観客に不自然さを感じさせる。
次に、主人公である鏑木のキャラクター設定について。彼は逃亡中に多くの人々と出会い、その都度異なる人物像を見せるが、その変化が唐突であり、深みを欠いている。特に、彼と出会う人々が彼を容易に信頼し、協力する展開は現実離れしており、物語の説得力を弱めている。
工事現場で怪我、、労災扱いが常識。介護施設で労働する場合、履歴書、身分証明書必要無いの?現代社会で給料は銀行振込が常識だが銀行口座はどうした?(スキマバイトでさえ必要で現金払いなんてあり得ない)
大昔はスルー出来たが今は無理。フィクションでも架空の国でもSFの平行世界の話でもないのだからリアルさは必要不可欠。
また、物語のテーマとして「人が人を信じること」が掲げられているが、その表現は表面的であり、深い洞察や新しい視点を提供していない。鏑木が出会う人々との関係性も浅く、感情移入が難しいと感じた。
さらに、藤井監督の過去作品と比較しても、本作は社会問題への言及や権力批判の要素が薄く、監督の一貫したテーマ性が感じられない。そのため、作品全体としてのメッセージ性が曖昧であり、観客に強い印象を残すことができていない。
総じて、映画『正体』は興味深い設定を持ちながらも、キャラクター描写やテーマの深掘りがリアルさが不足しており、物語の信憑性やメッセージ性に課題が残る作品となっている。藤井道人監督のこれまでの作品と比較しても、一貫性や深みが欠けており、観客に強い印象を与えることができていないと感じた。
ラストシーン、法廷で無罪判決出た所で多数の傍聴人が拍手?呆れました、ガックリした。法廷では拍手や声出し禁止です。注意してもやめない場合、退廷させられる。いくら映画とは言えリアルさの欠片もない酷い演出。