「主人公の脱獄理由に心揺さぶられる」正体 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公の脱獄理由に心揺さぶられる
お気に入りヒロインの出演が有るわけでもなく、本作はどうしても観たいという作品ではなかった。 強いて言えば、横浜流星が(俺的には)広瀬すず作品“流浪の月”で良い演技をしてたなと思ったので、観てみようかと。
【物語】
鏑木(横浜流星)は一家殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けて収監中の身。ある晩、獄中で急病を装い、搬送される救急車の中で暴れて脱走に成功する。日本各地で現場作業員、フリーライター、介護士として密かに働きながら潜伏を続ける鏑木。何度か潜伏場所を警察に突き止められるが、その都度ギリギリでその場から逃走していた。
鏑木を追っている刑事又貫(山田孝之)は事件当時の捜査から関わっており、潜伏先での同僚和也(森本慎太郎)、沙耶香(吉岡里帆)、舞(山田杏奈)らから事情聴取するが、彼らが語る鏑木の人物像はそれぞれ全く異なり、まるで別人のようだった。
【感想】
これは期待を越えて良かった。
冒頭に書いたとおり本作の観賞動機は薄かったので、設定もあらすじも知らずに観た。予告編の記憶も無かった。
それが良い方向に行ったのかも知れない。
作品よっては設定が呑み込みにくく(俺はそれだけで拙い作品だと思うが)、事前に設定を理解しておいた方が良い作品もあるが、本作の場合は予備知識無くとも序盤で主人公の置かれた状況がスッと頭に入り、スンナリ物語に没入して行くことが出来た。
“正体”というタイトルも上手い。普通はどちらかと言うと、“裏の顔”的なネガティブな印象のある言葉だが、本作では想像の裏をかいている。
演出も良い。程よい重厚さを感じることができる。
そして何より終盤で明かされる鏑木が漏らす“脱獄した理由”のセリフがいい。作品の肝だと思うのでここでは書かずにおくが、そのセリフは胸に響いた。同時に作品の主題はそこだったんだと至極納得。
タイトル、あらすじ紹介あるいは序盤の展開からは逃亡者対警察のミステリー・サスペンス劇を想像するが、胸熱くなるヒューマンドラだった。
公開直前にある映画賞の授賞発表が有り、観る前に言われることに若干違和感を覚えたが、観賞してみるとなるほど納得の作品。