劇場公開日 2025年8月1日

「理不尽な入国審査を追体験」入国審査 ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 理不尽な入国審査を追体験

2025年9月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

 本作は第一次トランプ政権の時代の話であることが劇中のニュースから分かる。当時は国境の壁建設やイスラム圏からの入国停止、難民の受け入れ制限など、移民に対する強硬策がかなり大々的に行われていた。ここで描かれる厳しい入国審査もその一環で、おそらくディエゴたちのような体験をした人たちは結構いたのではないだろうか。
 尚、本作は監督自身の実体験に基づいた話ということである。

 物語はほとんどが空港の中で展開される会話劇主体な作りとなっている。緊迫した審査の様子をドキュメンタリータッチで捉えながら、ディエゴとエレナの焦燥、絶望を濃密に描出している。コンパクトな作りが奏功してダレることなく最後まで興味深く観ることが出来た。

 彼等を質問責めにする冷徹な審査官も恐ろしいのだが、それ以上に遍く個人情報を調べ上げていた彼らの捜査力に恐怖を覚えた。実は、ディエゴには曰く付きの過去があるのだが、おそらくそれがブラックリストか何かに載っていて今回の取り調べに繋がったのであろう。
 過去の人間関係や性生活まで根掘り葉掘り聞き出すその様子は、もはや取り調べというよりも陰湿なイジメにしか見えなかった。特に、ダンサーであるエレナに、目の前で踊って見せろというシーンは非情である。

 トランプ政権の移民に対する排他主義は現在も様々な方面で物議を醸している。ここで描かれているようなことが今でもどこかで行われているかもしれない…と思うとゾッとしてしまう。

 日本は長きにわたり移民政策に消極的な姿勢を執っている。もちろんそこにはそれ相応の理由があるわけだが、人口減少の一途をたどる現状を考えれば、いつかはこの問題に向き合わなければならない。もはや見てみぬふりが出来な所まで来ているような気がする。先頃観た「マイスモールランド」という映画を思い出してしまった。

 さて、ラストは意外な形で締めくくられるが、正直これには少し肩透かしを食らってしまった。硬派な社会派作品から一転、一組のカップルの愛憎ドラマに収まってしまった印象を持ったからである。確かに人を食った結末で面白いのだが、もっとストレートにメッセージを放っても良かったのではないだろうか。個人的には、その方が作品としての力強さは出たように思う。

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