「実はコメディ? よくできた佳作だとは思うが 映画より短篇小説向きでしょ」入国審査 Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
実はコメディ? よくできた佳作だとは思うが 映画より短篇小説向きでしょ
まずは、私が個人的に聞いたお話から。出張中の北京でたまたま知り合った ある日本のビジネスマンと、日本に帰国するフライトの時間が近かったかなんかの理由で、空港までのタクシーに同乗し、車内で1時間ほどおしゃべりして過ごしたことがあります。彼は海外出張に関してはかなりの猛者で、日本を拠点にしながらも世界中をあちこち飛び回り、パスポートの有効期間中に入出国のハンコを押すページが足りなくなって増ページするほどの企業戦士でした。で、その百戦錬磨の強者ビジネスマンがアメリカでの入国審査で別室に連れてゆかれて、こってり油をしぼられたとのこと。実は彼は直近ではイランを相手にした商売のプロジェクトで忙しくてイランに何回か入出国を繰り返した後、アメリカに入ろうとしたのでした。”On business” の一言では許してもらえなかったんですね。この日本人、最近やたらと我々にとっては敵対国であるイランに行ってる、おまけに入国した国もやたらと多い、怪しい、といった感じだったのでしょうか。で、入国目的であるビジネスの内容をしつこく何度も訊いてきて矛盾がないか確認するような感じだったそうです。こっちは個人、相手は国の代表で恐らくはマニュアルあり。こっちにとっては英語は外国語、相手は英語ネイティブ。まあなんとか切り抜けて入国したそうですが、なんか嫌な体験だったみたいでご同情申しあげてしまいました。彼はアメリカ以外の国ではそんな嫌な思いをしたことはないとのことでした。まあ、でも、思い起こせば、9.11 からあまりたってない頃の話だったので、そんなこともあるだろうな、多少時間がかかっても仕方がないかとも思いました。
この作品では単なるビジネスや観光での入国ではなく、移民が絡んできます。合法的な移民に見えても実は計画的に法の網をすり抜けて入ってこようとする人たちもいるみたいで(そのことに関する是非については我々がとやかく言うことではないと思いますが)、それを取り締まるのも入国審査官の役目というわけです。本作ではそんなグレーゾーンにあると思われる入国者に対して、入国審査官が別室に呼んで訊問して揺さぶりをかけてくる様子が描かれています。訊問の対象者はスペインから入国しようとしていた男女のカップル。そのうちの男性のほうが言われてみればなるほど怪しいなあ、でも単にいちゃもんをつけられてるだけと言えなくもないよな、あたりのグレーゾーンにいて審査官に揺さぶりをかけられます。私が最初に例をあげた日本人ビジネスマンなら、どんなに揺さぶりをかけられようとも自分の出張目的を正直に淡々と説明するだけでよかったのですが(何回も同じことを説明するのは疲れるにせよ)、彼の場合は指摘を受けたことに対して多少は心当たりがあり(たぶん)、気弱な性格(たぶん)なこともあり、かなり動揺しているように見受けられました。そんな過程で連れの女性に意図的に隠してきた(たぶん)彼のある過去がその女性の知るところとなり、女性の男性への信頼が揺らぐこととなり……
そして、尋問は終わり、カップルの間には気まずい空気が流れ…… そうこうしているうちに物語は突然の大団円を迎えます。なかなかうまいオチのつけ方で、思わず「座布団一枚」と言いたくなります。ただ映画としてはどうなんでしょう。よくできたお話なんですが、実はもっと短くできたのに引き延ばして上映時間77分の劇映画にしたような印象を持ちました。これだったら、30分くらいの入国審査にまつわるお話を3篇ほど集めてオムニバスにしたらどうかと思ってしまいました。楽しんでおきながら、わがままでどうもすいません。
このお話って、つまるところ「語りもの」のような気がしました。それこそ、最初に例を出したような、旅の同行者に「昔、こんなことがありましてね」と語り聞かせるようなお話です。この映画で入国審査を受けたカップルの女性のほうが10年後に空港の待合室でたまたま居合わせた人に、10年前にニューヨークの空港で体験した入国審査の思い出話を語るというストーリーの短篇小説はいかがでしょう。この小説では映画では描かれていない、ちょっと気になる「その後」も描かれます。
「あれがあったから、私たちは……」彼女は飛びたってゆく飛行機のほうに視線を移して続けた。「そういうことってあるのよね」
私もこの映画はオチがあるユーモアだと思いました。
長さは、途中をサスペンスで描くという目的を踏まえて、適当だったと私は思いましたが、3本くらいのオムニバスにするなら、オチに特化してもっと短くまとめても良さそうですね。
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