「ようこそ、アメリカへ!」入国審査 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
ようこそ、アメリカへ!
こんな終わり方か…と思った。
そして、Congratulations♪と歌が流れ始めて、これはブラック・ユーモアだったのだと理解した。
アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケスという二人が共同脚本・共同監督のスペイン映画。このコンビは、これが長編デビュー作とのこと。
自主制作のような低予算・短期間で制作されているのだが、なかなか大胆な映画だ。(安普請であることは明白)
本国では配信用コンテンツだったらしい。
ある男と女がタクシーの後部座席にいる。男がパスポートを忘れたかもしれないと、タクシーを停車させる。夫婦らしきこの男と女は、二人でアメリカに移住しようとバルセロナを発つのだが、バルセロナのパートはこのタクシーの中だけが舞台で、既に男の挙動に違和感がある。
道中、旅客機の中だけが舞台。ここでも男の挙動を追うが、何かが起きそうで起きない。
そしてニューヨークに着く。ここからは空港内だけ、というよりほとんど入国審査の取調室と待合所が舞台。
徹底した節約ぶり。当然だが、ニューヨーク・ロケなど行われていない…と思う。
何が引っかかったのか、男と女は入国審査官に個室で尋問されることになる。審査官は男と女の2人。ほぼこの4人だけの密室会話劇が展開する。
…そういえば、2組の夫婦による密室会話劇『対峙』(’21)というアメリカ映画は傑作だった。
高圧的な審査官が繰り返す質問で男と女の背景が段々と見えてくるのは、前述の『対峙』も巧みなセリフ構成だったのと同様に、脚本が巧みだ。
男と女は事実婚の関係で、それぞれの国籍は違うのだった。
ビザの取得やグリーンカードの申請についての質問から、入国審査に無関係に思える内容、さらには男の過去にまで質問が至り、神経を逆なでして追い詰めていく。
本当に何もやましいことがないなら、こんな理不尽で恐ろしいことはない。
たが、必ずしも清廉潔白とは言えないのではないか、と見えてくるのだから、観ている側にとっても怖い。
男と女は途中で分断されて、1人づつ個別に尋問を受ける。
ここからがさらに怖い。
女が横にいる場であえて男に質問し、今度はお互いが見えない場で質問するという、狡猾な尋問で揺さぶり続けられる、男…と女。
最初に違和感があった男の挙動。ニューヨークの入国ゲートの列では過剰なほど不安げな様子だ。
列の前に並んでいた男も何かありそうだったり、別室に移動させられたその待合所で同じように待たされている人々が妙に無気力に見えたり、天井の何かの工事が行われていてその騒音が遠くにかすかに聞こえたり、なんとなく不安を煽る演出が随所にあって…怖い。
男=ディエゴ役のアルベルト・アンマンはアルゼンチンに生まれ、軍事独裁政権を逃れてスペインに渡ったという。
女=エレナ役のブルーナ・クッシはスペイン・バルセロナに生まれ育ち、モダンダンスンの経験があるという。
この二人の役者の背景が、役のキャラクターにそのまま反映しているようだ。
さてさて、この取り調べを受けたことで変化が起きた二人にとって、極めて事務的に係員から告げられた審査結果が、吉と出るか凶と出るかは映画の先のまた先にならないと判らない。本当に怖いジョークだ。
コメントありがとうございます。映画としては少し物足りないかなとも思ったのですが、ジョークのセンスはバツグンでした。もともと配信用コンテンツだったという話にはなるほどと思いました

