「心のジャイロスコープが欲しくなる」フィリップ カール@山口三さんの映画レビュー(感想・評価)
心のジャイロスコープが欲しくなる
眼の前で恋人や家族を一瞬の内に殺戮された者のその行状とその後のPTSD(別名: 心的外傷後ストレス障害)はいかなるものか?
事件後、復讐鬼と化したフィリップが敵地に、フランス人と称して高級ホテルウエイターとして働きながら報復するターゲットは、出征兵士の妻!
ユダヤ人として反ナチ活動としての報復ではなく、恋人を亡くした怨念よる個人的な欲求不満解消のようなニヒルな反抗。
フランスに近いフランクフルトでの緩いナチス度の統一感や高揚感が、国歌演奏に合唱で一気に盛り上がる様は異様でまるでカルト集団を彷彿させた。
身辺にも戦場と化し、身近な知人や友人がナチに処刑され反ナチ活動に自然と巻き込まれ個人的な復讐ではなく、ナチス将校を狙撃して、フランスへ旅立つ。
心の変遷と鬱屈は、肉体と精神に宿り、その異様な緊張感と萎縮感が息苦しい。
その発散がパーティー会場でのランニングと大祝賀会で爆発した。
なかなかいい作品だった。
細やかな抵抗、歪な闘いだが、一寸の虫にも魂はある。
あの長々のノーカットの慟哭は凄かったなぁ
狂乱の世界の中で、どれだけ自分を保てたろうか?
60年も発禁処分されたのだから相当過激行動があったと思われる。
なにしろホロコースト、ゲットーの実話なのだから。
そう言えば、日本の銃後の夫人などに近い話も散見する。
(^o^)
フィリップ
劇場公開日:2024年6月21日 124分
ポーランド人作家レオポルド・ティルマンドが自らの実体験を基に1961年に発表し、
その内容の過激さから発禁処分となった小説「Filip」を映画化。
ナチス支配下のポーランドとドイツを舞台に、自身がユダヤ人であることを隠して生きる青年の愛と復讐の行方を描く。
1941年、ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系ユダヤ人のフィリップはナチスによる銃撃に遭い、恋人サラや家族を目の前で殺されてしまう。
2年後、フィリップは自身をフランス人と偽ってドイツ・フランクフルトの高級ホテルのレストランでウェイターとして働きながら、
ナチス将校の夫を戦場に送り出した孤独な妻たちを次々と誘惑することでナチスへの復讐を果たしていた。
嘘で塗り固めた生活を送るなか、フィリップは知的な美しいドイツ人リザと出会い恋に落ちるが……。
監督は1990年代よりテレビプロデューサー・演出家として活動し、アンジェイ・ワイダ監督作のプロデューサーとしても知られるミハウ・クフィェチンスキ。
フィリップ
劇場公開日:2024年6月21日 124分