「ありがとうって言われたい」愛に乱暴 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
ありがとうって言われたい
カノジョはなんのために生きるのか。近所の放火事件から起きる、一人の女性の崩壊劇。反応が薄い旦那と自分のことを少し面倒くさそうにあしらう姑。自分も同じ体験したのではないかと錯覚するほど、リアルな境遇で主人公に共感を覚えてしまう。
吉田修一の作品は全体的に湿っぽく、オチが好きになれないことが多いのだけど、本作はいつもと趣向が違うのか、森ガキ監督の演出力の高さからなのか、地味で暗い話でありながらも、軽快なテンポのおかげで終始飽きることなく、集中して物語に入り込むことが出来た。こういう映画でこんな感想を抱くのは意外。すごくよく出来ていた。
これまでのイメージとはかなりかけ離れた江口のりこのキャラクター像。印象的な台詞やカットが多く、こんな江口のりこもいいなと、改めて好きになった。歴代作品を見ていると、彼女に求められているもの、確立されているものは1つ、明確にあるのだろうと感じていたが、まだまだこの人には知られざる演技の幅が隠されているんだと気付かされた。変人のふりをする常人。シンプルが故に難しい役どころを、江口のりこ風に完璧に演じていた。心の動きが見て取れる、すごい俳優。
不倫関係にある小泉孝太郎、馬場ふみかは顔つきからなのか、年齢差あるにもかかわらずスっと入ってきたし、何気ない風吹ジュンが密かに作品を盛り立てていた。
何処にぶつけたらいいのか分からない、憎しみと怒りがスクリーンという壁を越えて伝わってくる。主人公・桃子に降り注ぐ災難は、ゴミ捨て場の放火と同じようにさほど大事には映されず、最初から何も無かったかのように、時だけが淡々と過ぎていく。言葉にはできない日常に潜む恐怖が、じっくりと全身を覆う。そして、結婚の意義とは何なのか。誰しも体験し得る境遇だからこそ、この夫婦を通して考えさせられるものが多くあった。
冷めきった夫婦を表すかのように、とにかく静かで暗い。テーマがテーマなだけに傑作とまでは言えないけど、こういった作風とジャンルでここまで見入ってしまうことは中々ないから、役者目当てにしろ、ストーリー目当てにしろ、ちゃんと期待に添えてくれる良作だと思う。これを機に、森ガキ監督にはもっと映画のメガホンを取って頂きたい。そして、こういう映画に日の目が当たる世の中になって欲しい...。
共感&コメントありがとうございます。
チェーンソーでミスリードされてしまったのか、ラストスカッとはしなかったですが観客に投げっ放しという訳でもなく、統一感のある作品に感じられました。
“日常の恐怖”という点、カタコトの店員に詰め寄る客とか、隣なのに電話で遣り取りするとか、さり気なく散りばめられてましたね。
個人的に、凸した愛人の部屋がのりこさん好み?にキレイで思わずたじろぐ風なのが面白かったです。