「健全な傲慢さが救いになることもあるはず」愛に乱暴 グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
健全な傲慢さが救いになることもあるはず
辻村深月さん原作の『傲慢と善良』の別視点とも思えるような物語。
ホテルのカフェで対面することになった不倫相手の馬場ふみかさん。
もし、不倫相手が馬場ふみかさんでなく、桃子から見て明らかに自分より容姿も劣り、職業やその他の属性においても、桃子の価値観においては〝桃子より下の人〟であったならこれほど心を乱されるようなことにはならなかったのではないか。
こんな下衆な男、こちらの方から離婚してやる。
と、割と単純に割り切れた気がする。
(と割り切れたなら、江口のりこさんの無敵な演技も、そもそもこの映画のような物語も必要なくなってしまうのだが…)
人が人を自分より下に見ることで得られる心の平安。
他者を下に見る、なんて発想は差別的であるとか傲慢であるという批判はその通りだが、人間心理としては、言い方を変えれば、人間がプライドを保つためには誰しもが心当たりのあることなのではないか。
国家や人民を守るための政治リーダーであったり、スポーツや芸術においてより秀でたパフォーマンスを発揮する。
そのような人たちの持つ崇高なプライドとは次元が違う品性に欠けるプライドではあるけれど。
決して人には言わないし、人を傷つけることもない秘かな傲慢さ(品性に欠けるプライド)であれば、いつも自分は敗者側に追い込まれていると社会を憎んだり、心がズタボロになるよりはずっと健全だと私は思います。
※桃子が不倫相手に決定的に負けた、と思わせられた原因に〝懐妊〟をあげるのは、なんとも言えない不快感を覚えます。
ひとりで賄いきれないマモルが母に泣きつき、母はかわいい息子のために、財産を差し出さざるを得なくなる、こんな状況に追い込で母屋離れ土地をゲットしたなら、桃子GJ! だと思いました。「離れをくれてやるから離婚しろ」みたいな義母をやりこめてるし。
コメントありがとうございます。
マモル母の口ぶりから、母屋と離れと土地は母の所有のようです。
夫の不貞が明らかなので、桃子は夫と愛人に慰謝料請求。愛人は教師ということで、世間体も考えて揺さぶりをかけて通常より上乗せで慰謝料をゲット、マモルには離婚に応じるための条件としてさらに上乗せで要求をつきつける、マモル母は、一人息子のために、「くれてやる」どころか自分の財産を桃子に「献上」するはめになった。結果、母屋でスッキリした顔で離れの解体を見ている桃子に繋がっている、だといいと思いました。