劇場公開日 2024年8月30日

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「「分かり易いもの、言われないと気づかないもの」・・・狂気とエロス」愛に乱暴 やまちょうさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「分かり易いもの、言われないと気づかないもの」・・・狂気とエロス

2024年9月1日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

両端が黒くつぶされる4:3の画面比率の映画でしたが、冒頭、何十年も使い倒されて燻んだトーンになっている古びた家屋における台所仕事を詳細に描写されたりする中で、まるで古いドキュメンタリー映画を観せられてる様な錯覚に陥りました。まあ、スマホ出てくるし、LINEっぽい描写もあるから現代の話に違いないのだけど。

今思えばこの段階で既にわたしは監督の術中にはまっていた訳なのですが、この作品において徐々に顕在化していく沢山の「狂気じみたもの」は、今、目の前で突発的、偶発的に生じたものではありません。

過去の長い長い年月を経てその狂気は徐々に醸成され、当人にとってはそれは当たり前の事象、下手すると世間的にもギリ許容されるんじゃないかと・・・いわば拡大解釈や誤認がすすんでしまっていることに、とても恐怖を感じました。

若干のパート勤めはあるがほとんど専業主婦である桃子を演じるのは演技派女優、個人的に大好きな江口のりこさんです。

年齢的に最後の妊活に興味があるが亭主は全く協力的でなく、むしろその亭主の浮気が疑われる最悪な状況に追い込まれ、精神的に不安定さが増し、徐々に言動の異常性が目立ち始める桃子。

しかし、亭主はじめ主要な登場人物のほとんどは様々な要因で「ナチュラルに狂人(笑)」でして、言われないと気づかないくらいの程度に常識人の姿に化けています。その化け物達に囲まれる中、桃子の分かり易い狂気が正当性を保ちつつ物語をひっぱっていくという稀有なパターンとなっています。

原作未読ですので、原作が素晴らしいのか脚本もしている監督さんの腕が立つのかよく分かりませんが、これだけ目を背けたくなる狂気をとっちらかしながら何やら爽やかな読後感さえある締め方にとても好感を持ちます。

あと、着目点に品が無くて申し訳ないですけど、ストーリーに必要な必然的なエロスも、狂気と同様、「分かり易いものと、言われないと気づかないもの」をしっかり提示していて素晴らしかったです。「言われないときづかないもの」に関して言及しますと「不倫相手の部屋での演出、演技指導?」とか、フェチ目線?ではもう完璧としか言い様がありません。やはり敏腕ですね、森ガキ 侑大監督は!

江口のりこさんの体当たりの演技はじめ、演者の皆さんがその演技に静かな狂気を含んでいて本当に素晴らしかったです。

ぜひご鑑賞ください!

やまちょう
かばこさんのコメント
2024年9月2日

コメントありがとうございます。

>亭主はじめ主要な登場人物のほとんどは様々な要因で「ナチュラルに狂人(笑)」

めっちゃ的確な表現で、感服しました、私もそう思います。「ありがとう」を言う感覚がない時点で、尋常なヒトではないです。彼らの狂気は、一見してわからないし、桃子も分かっていなかったようです、「言われないときづかないもの」ですね。
桃子は妊活してましたよね。そこまで気づかなかったのですが、ラストのアイスがりがりは、妊活諦めたから、なるほどです!

かばこ