劇場公開日 2024年7月5日

「非常にリアルで重い作品」先生の白い嘘 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 非常にリアルで重い作品

2025年11月3日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

先生の白い嘘——本心と赦しのあいだで

漫画原作の実写化作品『先生の白い嘘』(2024年)は、性差と暴力、そして「本心」と「嘘」の境界を問いかける重厚な物語である。
この作品は、登場人物の過去や社会的背景を掘り下げるよりも、原美鈴と新妻という二人の関係性に焦点を絞ることで、より深い人間の痛みに迫っている。

「本当のこと」と「白い嘘」
物語の発端は、担任教師・原美鈴と高校生・新妻の面談。
新妻が「本当のこと」として語った出来事に対し、原は学校の「ことなかれ主義」に従って否認する。
しかしその否認こそが、新妻にとっての「本当のこと」だった。
誰も信じてくれない、誰も聞こうとしない。
それでも新妻は、原の言葉の裏にある「何か」に気づく。

「男の所為で正しく生きられない」
「男が持つ不条理な力 それを誰かに許されたいだけ」

原の言葉には、鬼気迫るリアルさがあった。
涙を流す原に、新妻が差し出したポケットティッシュ。
それは原にとって、6年前にレイプされた後の血を拭いたティッシュと重なって見えた。

性差を超えた痛みの共有
新妻は、原が自分と同じ痛みを抱えていることに気づく。
そこには男女の違いなどなく、もっと奥深い「傷」がある。
原が新妻に語った「女のアソコが怖いのではなく、男に生まれてきたことが怖い」という言葉は、性の本質的な不条理を突いている。

原は、冒頭でこう語っていた。

「何かを2つに分けたとき、特に男女、その取り分は、いつも私は少ない」

この言葉は、搾取される側として生きてきた彼女の人生を象徴している。
支配者と奴隷のような構造の中で、原は誰にも怒りをぶつけることなく生きてきた。
その鬱屈が、彼女を壊していった。

本心に触れた瞬間、赦しが始まる
新妻の告白とキス。
それは恋であり、理解であり、赦しの始まりだった。
この体験が、新妻を成長させ、原もまた、過去と向き合う覚悟を決める。

原は、早藤に怒りをぶつける。
暴力に晒され、顔に傷を負いながらも、彼女は復帰する。
しかし、新妻とのキス写真がばら撒かれたことで辞職する。

新妻は言う。

「救えなかった悔しさ」と「それでも好き」

原は答える。

「でも無理だった。たとえどんな相手でも、男である限り。ゴメン」

この言葉こそ、原の二つ目の白い嘘。
新妻を守るための体裁上の嘘であり、本心の裏返しだった。

無償の愛と、差し伸べられる手
新妻は、植木屋として原に再び接近する。
最後のシーンに込められたのは、こうした問いかけだろう。

「先生、これでもまだ僕の本心を信じられませんか?」

持って生まれた性の違い、そしてそれぞれの「性(さが)」
理不尽と不条理に打ちのめされても、なお差し伸べられる温かい手。
そこに男女の違いや条件などはなく、花や猫のように、無償の愛がある。

もし原が、成長した新妻の中にその無償の愛を感じられたとき、彼女自身の成長が証明されるのだろう。

嘘とは、本心の裏返し
この作品が「嘘」と名付けられたのは、人が誰しも本心を隠して生きているからだ。
それは自己防衛であり、社会との折り合いでもある。
だが、本心は、決して嘘などつけない。
だからこそ、赦しと理解は、本心に触れた瞬間から始まるのだ。

R41