「都立高校の教師・原美鈴(奈緒)は、かつて、親友の美奈子(三吉彩花)...」先生の白い嘘 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
都立高校の教師・原美鈴(奈緒)は、かつて、親友の美奈子(三吉彩花)...
都立高校の教師・原美鈴(奈緒)は、かつて、親友の美奈子(三吉彩花)の婚約者・早藤(風間俊介)から暴行された経験がある。
それ以来、美鈴は早藤に支配されつづけていた。
ある日、生徒仲間からからかわれた男子生徒・新妻(猪狩蒼弥)から、バイト先の人妻から強引に関係を持たされたことを打ち明けられ、早藤支配により常日頃から女性性の不平等さを感じていた美鈴は、新妻に本心をぶつけてしまう。
しかし、その本心のぶつけ合いが、美鈴と新妻、ふたりの心を開き、近づけることになる・・・
といったところからはじまる物語で、鳥飼茜の同名コミック(未読)を、『きのう何食べた?』などの安達奈緒子が脚本化、三木康一郎が監督した。
とにかく、早藤のゲス男、クズ男ぶりが凄まじく(かなり誇張して描かれているが)、暴力により支配されている美鈴はもとより、恋人・美奈子がくっついているのが理解できない。
「できない」ということはなく、あれもあれで一種の支配形態なのだろうが。
早藤のミソジニー(女性に対する嫌悪や蔑視)ぶりはすさまじく、美鈴はひとり心の中に傷や膿を抱え込んでいくだけで、観ている方としては誰かに相談すればいいのに・・・と思うのだが、そうさせない・そうできない環境に美鈴は置かれている。
早藤は、美鈴が唯一の親友と認識している美奈子の恋人・婚約者。
よって、真実を打ち明けることで、美奈子を傷つけてしまうのではないかと葛藤する。
また、職場は学校。
閉塞空間で、いわば社会から独立した小さな社会で、「学校たるもの・・・」「教師たるもの・・・」といったバイアスで、常に穏便に事なかれで済まそうとする。
結果、美鈴は早藤にひとりで立ち向かわなければならない。
(新妻を愛することは心の支えとなっているが、それも世間の眼からみれば教師と生徒という不適切な関係と謗られてしまう)
終盤、美鈴が早藤に対峙するシーン。
美鈴の肝っ玉の据わり方が素晴らしい。
憎悪から赦しへと転ずる台詞もすごい。
早藤がたじろぐのも納得だ。
(このあたりは、森崎東監督の諸作を思い出すとともに、肉体性・生理性を得てさらに力強く感じました)
あぁ、これで(映画的な)しあわせな結末を迎えることができるのだ・・・と思った次の瞬間。
原作にもあるのだろうが、安達奈緒子の脚本は安易にミソジニー男を赦さない。
男を安易な結論に逃げ込ませない。
美鈴と美奈子の女性ふたりも『テルマ&ルイーズ』のように散らない。
早藤のミソジニーに集約されて描かれているが、理由なき嫌悪や憎悪、弱者・少数者への蔑視は、社会の中に渦巻いている。
しあわせな気持ちにはならないが、何かを変えることができるのではと考えさせられる力強さを持った映画でした。