「一度でも、なにかを本気で好きになってのめり込んだことのある人へ。」ルックバック 加藤プリンさんの映画レビュー(感想・評価)
一度でも、なにかを本気で好きになってのめり込んだことのある人へ。
タイトルの通り、とても純真で素敵な映画でした。
子供の頃って、男女問わず、なにかにのめり込んでは、ある日、急に脱皮するかのように
昨日までの自分の熱中を冷静に醒めて、次の自分になってゆくように
この映画で描かれる、漫画への情熱と青春はとてもよく わかりますよね。
主人公の自意識とふと 醒めるあの感じ
ヒロインのあの、一歩外へ思わず踏み出したあの気持ち
空の描写がこの映画にとって、とても大切な感情を表現していて、
「雨に歌えば」を超えるかのような、映画力のつよい、素敵なワンシーンとなっていますね。
あの雨は主人公の嬉し涙であり、ヒロインの嬉し涙でもある訳なのですね。
雨のシーンだけで、とてもグッとくるものがあり、この映画のすべてがあるような気がしました。
共依存関係のような、でも ふたりにとって いちばん良い時間が終わってしまって、
ヒロインの方が健全な決断を下すシーンも涙なくして見ていられません。
彼女はいつも主人公の背中を見つめて、いつかまた 力を付けて、主人公の背景を描くために
旅立ってゆく決断をしたのに違いありません。
主人公にもそれがわかっているのに、わかっているはずなのに、出てくる言葉は 違うものばかりで
それを後悔していたからこそ、主人公も次のステップへと駆り立てられていったし、
彼女もそれを夢見ていた最中だったろうに、
残酷にも、その決断が、あのような結果にたどり着いてしまうなんて。
後半の事件は、明らかに「京都アニメーション」の例の事件をモチーフにしていますが、
そこに対する犯人への糾弾や社会問題としてなにかを問い詰める論調はなくて
ただただ、クリエイターとしてのリスペクトと、祈り。
クリエイターとして、あるべき道を示して終わる
そこに流れる鎮魂歌、とても神聖なものを感じました。
これがクリエイターによるクリエイターへの、これ以上ない純粋な聖歌であると願ってなりません。
自分のアイデアが盗作されたのなんのって騒ぐ輩は、これだけのバックボーンで、手を動かして、
自分のすべてを注ぎ込んでゆく過程をちゃんとわかっているのかと、ひとりひとりのクリエイターの後ろにあった
これだけの努力と才能と物語と夢と人生を、身勝手な衝動でどうにかしてしまって良い訳がなくて、
揺れ動きながらも、研ぎ澄ましてゆく このクリエイティブな最先端の感覚がわかるのかっていうね。
この「凄み」は、実際に手を動かして、自分を注ぎ込んでいる人間にしかわかりませんよね。
私も分野は違うけれども、その延長線の(まぁお恥ずかしながら下の方にいる)人間ですから、まぁ、ぐぅの根も出ない表現でした。
それでも過去も背中を見ながら、前に進むしかないんですよね。クリエイターって。
主人公とヒロインの背中が、お互いを尊敬し尊重し合うものであったというタイトルが素晴らしいですね。
ウロボロスの尾のように、「永遠」を現しているかのようです。
この物語は、主人公とヒロインふたりのものですが、この物語に込められた祈りは、
数知れないクリエイターたちと、また最前線で物語を紡いでいるクリエイターとの
面識なき、けれども、たしかにそこにある絆のように感ぜられました。
観終わって思わず、合掌してしまいましたね。数々のクリエイターの魂が救われますように。
そして、現役クリエイターたちの魂が、より 高みへ昇華されますように。
人間賛歌なんだ。