「すばらしい」ルックバック SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
すばらしい
原作も藤本作品も全部好きなので、どんな映画であろうと観ようと思っていたが、予想以上に素晴らしかった。
特に主人公が京本にはじめて会って漫画を認められて嬉しくて走って帰ったシーンは心揺さぶられた。表情だけ見たら苦しそうで、からだも変なふうにねじまがってて、それがあまりに嬉しいからそうなってるんだ、というのがすごい表現だと思う。
あと、漫画の執筆シーンは原作より生々しいリアリティがあると思った。良いアシスタントが見つからなくて交渉するシーンは、過酷な漫画現場の一端を垣間見る感じでゾッとする。
マール社の「やさしい人物画」とかの定番の美術書とか、デジタルの漫画画材の数々とか、細かい道具とかも良かった。
シャークキックの単行本が複数巻のものがあるのは何でなのか、と思ったが、「重版」がかかったことを表す描写だと知って納得。
ただ、正直言えば映画で1時間弱の時間というのはやや物足りなく思った(特別料金1700円で鑑賞ポイント使えないし)。これはこれでテンポが良くて良いのだが、どうせ映画にするなら2時間くらいの話にしてもいいのではないかとも思った。
特にこの作品はたくさんの映画のオマージュが詰め込まれているので、ふくらませる余地はありそう。でも素人がいい加減なことを言うものではないな…。これはこれでいいのかも知れない。
入場者特典で原作の全ページのネームの単行本がもらえるというのは全然知らなかったのですごくうれしい。大切にしよう。
表紙裏に、「発表時から単行本収録において、一部台詞の表現を修正した箇所があります」との一文
そうだ、この作品、ジャンプ+の初掲載時の台詞が修正されたんだった。
言うまでもなくこの作品は京アニ事件がもとになっている。藤本さんのやり場のない怒り、悲しみ、後悔、苦しみを作品に叩きつけたのだろう。だからこの作品は胸を打つ。
初掲載時の台詞は精神障害者への差別を助長するということで変更されてしまったけど、そこでこの作品が京アニ事件がもとになっている作品だと言う要素も消えてしまった。
単行本版と映画版だと、犯人のセリフが「ネットに公開していた絵をパクられた」になっており、京アニ事件とのつながりを示唆したものになっている。
今の時代って無料コンテンツが溢れすぎてて、漫画やアニメに対する価値が相対的に低くなってる気がするんだけど、五分で読み終わってしまうような漫画も、描くのは一ヶ月とかとんでもない時間と苦労をかけて生み出してるかもしれなくて、そういう生み出す側の苦労を知ると言う意味でもこの作品はもっとたくさんの人に観てもらいたい。