バティモン5 望まれざる者のレビュー・感想・評価
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社会問題に切り込み、生々しくパワフルなラジ・リ演出
相変わらずラジ・リ監督の紡ぎ出す物語は、観客がその場の喧騒に巻き込まれているかのような臨場感に満ち、絵作りも非常に生々しく、パワフルだ。移民家族が数多く暮らす居住棟エリア「バティモン5」を舞台に、行政と住民が両極に分かれて怒りの感情を衝突させる様を、明確な対立構造とマクロとミクロの目線で炙り出した本作。血も涙もなく政策を推し進める臨時市長と、住民らの状況を見るに見かねて動き出した代表者という、両陣営を率いる二人を旗印にした人間ドラマもスリリングに展開する。ただ作品的にどうしても住民目線になりがちで、臨時市長があそこまで頑なに政策を断行しようとした心理や背景についても知りたかった・・・と言うのは欲張りすぎだろうか。ともあれ、この監督の今後への期待は本作でも高まるばかり。パリ郊外(バンリュー)に依然として残る深刻な社会問題に関して知識を深める上で欠かせない現代の神話とも呼ぶべき一作と言えよう。
パリ五輪の向こう側
移民・低所得者層が集まるパリ郊外のアパート群は近年のフランス映画によく登場するのですが、その真ん中に斬り込んだ作品です。住人を追い出してアパートを取り潰し小奇麗に一新したい市とそれに抗議する住民が真っ向から睨み合います。住民が力づくで訴えればそれは市によい口実を与え警察の介入を招きます。しかし、「怒っても意味ないよ。事を荒立ててはならない」は真っ当な意見の様で市の思うつぼでもあります。どこにも解決策が見当たりません。
そうした出口なしの閉塞感の中、現実のフランス社会では極右政党が下院選挙で圧勝しました。住民たちの絶望と鬱屈は更に強まるでしょう。
ラ・ジリ監督の視線は、前作の『レ・ミゼラブル』より一層研ぎ澄まされた様に映りました。パリ・オリンピックを控えた国でこの様な作品を制作した意味を考えたいです。
うーん、問題提起だけ?
移民の人々が多く暮らすパリ郊外のバティモン5では、再開発のため老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進められていた。そんな中、前市長の急逝により臨時市長に就任したピエールは、バティモン5の復興と治安改善の政策を強行することにした。住民たちはその強引なやり方に反発し、アビーら住民側と、市長ら行政側が衝突を起こした。やがて激しい抗争へと発展していく、という話。
以前もパリの暗部を描いた作品を観て、大都会でも(日本もだが)こんなところはあるよな、って思ったが、今回も同様、再開発に全住民の同意を取るのは難しいだろうな、って思った。
移民問題が少ない日本にいると分かりづらいところもあるのだろうが、クリスマスに家を奪われて市長の家を壊しに行った気持ちもわかるが。
結局何も解決しなかったな、って終わった。
観客に問題提起しただけ?
最適解はどこに?
移民労働者が暮らすパリのバティモン5と呼ばれる団地にて、新市長代理の男が立ち退き命令を出し反発する住民達だったが、事態は思わぬ方向に…といった物語。
全体を通し、如何とも解決のし難い問題について訴えかけてくる作品。
アビーの主張する正義もわかるし、最初は緊張気味で視線もおぼつかないピエールも応援したくなる雰囲気があったが…。
どちらも自分らの生活や立場がかかっているから必死になるのはわかるけど、やり方が過激なのかな。とはいえ、じゃあどんな方法が?と問われればワタクシには到底答えられんし…。
千載一遇のチャンス、とは皮肉というかうまい大義名分というか…確かにあぁいうことがあった以上、これは仕方がない…のか?ロジェもやるせないですね。
クライマックスは中々に戦慄の展開。これは間違いなくダメなやり方だろうが…う〜ん。。
結局いつまでも続いていくであろう問題。困っている人たちを助けたい気持ちもわかるが、そんな綺麗事だけじゃ済まされないですよね。
決して我々とも無関係ではない難しい問題に深く考えさせられた作品だった。
パリの暗部を抉るように描き出す社会派作品!
市長サイド、移民サイド、いずれも公平に描いている作品だなと思い、
私としては好感が持てました。
ともすれば、「移民の扱いがかわいそう」となりそうな話であるにもかかわらず、
そうは描いていないところが秀逸だと思います。
もちろん、移民に対する差別は酷いものがあると感じますが、
移民は移民でフランスの社会的なルールを守っていなかったりもして、
どっちサイドに立って思考するかで見方は変わるのですが、
どっちサイドにも立たずに、客観的に俯瞰して観れるようなつくりになっているところも
また秀逸だと思いました。
とにかく、終始緊張感が漂うスリリングな映画でした。
いろいろ考えてしまう内容ですし、
きっとこの問題は解決はしないのでしょうが、
解決すべく思考することこそ大事なのだろうと思った次第です。
ラジ・リ監督作品は初鑑賞ですが、『レ・ミゼラブル』も観てみたいと思います。
※本日、宮崎キネマ館のレイトショーで鑑賞しましたが、貸切でした!!
願わくば、多くの方に観ていただきたいです。
「レ・ミゼラブル」よりも過激か
「レ・ミゼラブル」も面白かったが、これはもう救いがないね。タイトで緊迫感のある演出で見応えがあった。これがリアルなフランス、ヨーロッパなのかな。近代から現代にかけて成立した「国民国家」という概念が、あまりにも空しい自己満足の虚像に思えて怖い。安価な労働力受け入れ、移民・難民を受け入れることが正義というような理念は綺麗事でしかないと思われて悲しくなる。テレビの報道で、入国管理が厳しく難民受け入れに冷たいと言われる日本だが、この映画を見て恐ろしくなる。経済格差による貧民の流入は悲劇しか産まない。どれだけ時間がかかろうが、血が流れようが、自国内で解決してもらうしかない、としか言えないのではないか。「幸せ」の総量はきっと決まっていて、どこかが出っぱると、どこかが凹むんでしょう。
不完全燃焼
で?って、心の声が。
社会派。消化不良。
パチモン新市長
🤔
歩み寄れない厳しさ
一緒に行けるぬいぐるみは、1つだけなの?
映画は興行です。エンタメ産業です。そこで、このお話を興行するのは、何故ですかね。
自由、平等、博愛のクニの現状と、どこまてリンクしたお話なのか、分かりませんけど、全くのデタラメなわけもなく、たった一つの落書きから、誰もが望まないディストピアへまっしぐらな様は、果たして他人事なのか、私達の未来なのか…?。
このクニの、何処の街だが覚えてませんけど、クルドの皆さんが暮らす街が、分断状態だとか。双方の言い分あるようですが、どうにも溝が埋まらない。この話に関心領域のある方、このクニにどれほどいるのか不明ですが、学校で無味乾燥な歴史の年表覚えるより、この映画観て、クラス討論会でもした方がマシな気がします。尤も、入試問題に関与しない授業で、ただでさえ忙しい学校の先生に、これ以上の期待と負担を、押し付けようとする考えの方が、このクニの問題かもね。
家を追い出される気持ちって、想像できます?。シリア、アフガニスタン、ウクライナ、ガザ、そして、まさかのパリ…。
先日、何でもないことが幸せだったと思うって、主人公が呟いたら、それ、ギャグですか?って、突っ込まれる映画観たんですけど、それくらい、他者の不幸にヒトは鈍感なものです。
分断と不寛容の果てに何があるのか、身をもって体験したくもないし、映画で観ているだけでも、しんどい。いきなり家を追われた子ども達、その後、どんな大人になると思います?。あの時、一緒に家を出たミニカーやぬいぐるみ、きっと一生忘れられない記憶になりそう。
あの子たちが築く未来は、どんな色をしているんだろう…。
フランス語とアラビア語/英語のセリフが字幕上でも区別できた!
背景は映画「レ・ミゼラブル(2019)」と同じパリの郊外(バンリュー)、社会派の問題を取り扱う。やや既視感があった。製作陣だけでなく、登場する俳優にも共通性があり、一方、前作の冒頭(サッカーW/Cでのフランス代表の勝利)のような華やかさには欠けていた。
低所得者用の賃貸集合住宅(HLM)に見えるけれど、作中の説明に従えば、それぞれの部屋は分譲されている5号館(Batiment 5)が舞台。外観はル・コルビュジエ風だから、できたのは70年代か。エレベーターも動いておらず、セキュリティーの配慮はなし、移民たちが住んでスラム化している。無許可の食堂まである。以前にはユダヤ系の移民が暮らしていた痕跡が出てくる。
ある出来事があって、その地域(モンヴィリエという仮想の市)を支配している政党(おそらく極右)の談合により、未だ若い小児科医である市会議員ピエール・フォルジュが、市長代理に任命される。彼は、そのポストに就いたとたん、本来持っていた正義感が前面に出てきて、老朽化した建物の住民を強制的に追い出し、建て替えようとする。当然、住民たちとの緊張が高まり、衝突する。前作では、警察の犯罪対策班と少年たちの争いが中心だったが、本作では、行政側と住民の抗争が中心。政治色が強まった。
時代は、マリからの移民である監督ラジ・リがさまざまな経験をした2005年頃らしい。ピエールは、アラブ系、アフリカ系の移民たちには冷たいが、英語しか話さないシリアからの難民は、キリスト教の信者だからという理由で大事にする。移民にも変化がある。移民1世から中心は2世、3世に移行しつつあり、それまでフランス社会の発展を底辺から圧倒的に支えてきたマグレブからの移民(アラブ系)に、サハラ砂漠以南のアフリカからの移民が増えている。1世がいるとアラビア語が聞こえてきて、日本語字幕でもフランス語とは区別されていた。
移民とはいえ、2世、3世ともなれば完全にフランス人だ。そこで、リーダーになろうとする者が出てくる。マリからの移民2世であるアビーは、市役所でインターンをしながら、移民の支援団体を運営しているが、彼女がピエールに対抗して市長選に挑むというわけだ。
ラジ・リは組織化が得意で、政治への参加も厭わないが、信条は非暴力、それがアビーの行動に反映している。しかし、アフリカ系の若者の暴力傾向を、本当に抑制できるのだろうか。アラブ系に多かったイスラム教色もやや薄れ、クリスマスにツリーを飾り、プレゼントを贈るところまででてくる。前作で出てきたロマのような特異な人たちや、悪に手を染めながらも、解決策を見出そうとする副市長のロジェにもさらに活躍して欲しかった。次回作は27年か。また観たい。
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