「立場をわきまえない権力者は、、その足元を自らの力で壊していく」バティモン5 望まれざる者 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
立場をわきまえない権力者は、、その足元を自らの力で壊していく
2024.5.30 字幕 アップリンク京都
2023年のフランス&ベルギーの映画(105分、G)
パリ郊外の団地建て替え問題にて対立構造が浮き彫りになる様子を描いた社会派ヒューマンドラマ
監督はラジ・リ
脚本はラジ・リ&ジョルダーノ・ジュレルリーニ
原題(仮題)は『Les Indésirables』で「欲望の塊」という意味
英題の『Batiment 5』は「バティモン地区の5号棟」という意味
物語の舞台は、パリ郊外のバティモン地区
そこには老朽化した団地がたくさんあり、少しずつ建て替え工事が行われていた
ある日、建物を爆破しようとしたところ、火薬の量を間違えてしまい、予定よりも大きな爆発になってしまった
見学に来ていた市民や市の関係者は粉塵に包まれ、その煽りを受けて、市長は救急搬送されてしまった
高齢の市長は帰らぬ人となり、市議会は急遽、市長代理を立てることになった
白羽の矢が立ったのは、クリーンさを持ち合わせていた小児科医のピエール・フォルジュ(アレクシス・マネンティ)だったが、妻のナタリー(オレリア・プティ)は生活が激変すると反対した
だが、「断れない雰囲気だった」とピエールは議会の申し出を受け、形だけの投票が行われた
ピエールをサポートするのは、地元の代議士アニエス(ジャンヌ・バリバール)と副市長のロジェ・ロシェ(スティーヴ・ティアンチュー)で、都市開発の責任者はロジェが担っていた
だが、一連の建て替えに関しては不透明な部分は多く、市議会は市民団体から突き上げを喰らっている状態だったのである
選挙なしで代理を立てたことで、ジャーナリストや市民団体は猛反発を起こす
だが、ピエールは粛々と任務を遂行すると言うに留まり、問題のない彼を追求することはできなかった
物語は、建て替えによる立ち退き対象だったアビー・ケイタ(アンタ・ディアウ)が、建て替え計画が秘密裏に変更されていることに気づくところから動き出す
アビーはピエールに詰め寄るものの、彼は「計画はロジェが責任者だ」と相手にしない
そこでアビーはロジェに文句をいうものの、犯罪の温床になっている「大人数での部屋の占拠を排除する」という意向を変えなかった
アビーは街角で行われていたデモ活動に参加し、そして、自身が市長になって、計画の白紙撤回をしようと考え始めるのである
映画は、現在進行形のフランスの問題を描いていて、不法移民などの団地の占拠であるとか、法律を無視した使用などを描いていく
それと同時に、権力を持ったことで暴走する個人を描き、それによって起こる衝突の様子をリアルに描いていく
溜まり溜まったヘイトはどのように爆発するのか
ラストシークエンスにおける「無敵の人化」したブラズ(アリストート・ルインドゥラ)の行動は、どこで起こってもおかしくないように思えた
いずれにせよ、移民問題だけでここまでこじれているわけではないが、市民の安全という詭弁が「法律を盾にした暴挙」を起こしている側面があり、その連鎖の果てに暴力があるとも言える
話し合いで解決すべき問題も、市議会側にある種の思想があって、それをうやむやにしつつも翻さないところに根深い問題があるのだろう
今回は起こるべくして起こった事件であり、先行きが見えない人に対して、逃げ道を作らないことは取り返しのつかない事態を招きかねない
この警告に対して、対岸の火事と思う為政者がいれば、実際に起こるだろうし、その時は本当に死人が出てしまうのではないだろうか